マクラーレンMCL38のリヤブレーキドラム（銀色のテープで小さな穴が塞がれている）

　マクラーレンはF1ハンガリーGPを前に、タイヤ温度管理の改善に役立つと思われるトリックをめぐり、議論の渦中にある。 【動画】ブラッド・ピット主演のF1映画、2025年の公開を前にティザー映像が先行配信 　この件を最初に報じたドイツのアウト・モーター・ウント・シュポルト誌によると、マクラーレンのブレーキドラムのデザインは最近、ライバルであるレッドブルの目に留まり、FIAにマクラーレンが何を企んでいるのか疑問を投げかけたようだ。 　問題となっているのは、マクラーレンMCL38のリヤブレーキドラムに開いている小さな穴だ。 　この穴によって、ブレーキドラムとホイールの間に気流を通すことでタイヤの温度が極端に上昇しないようにすることができるというのが、ライバルチームの主張だ。 　F1チームは長い間、ブレーキから発生する熱をブレーキドラムとホイールでコントロールし、タイヤ温度のマネジメントに役立ててきた。 　ホイールの標準化とホイールカバーの装着により、大きく手法は変わったものの、チームはブレーキの熱がタイヤに影響を及ぼさないよう、2重のバスケットで熱を隔離しようとしている。 　ひとつめのカーボンカバーはブレーキキャリパーとディスクを囲み、ブレーキダクトの後ろにある出口に向かって熱風を排出するダクトを備えている。 　ふたつ目のバスケットはバッファーの役割を果たし、ホイールとひとつ目のドラムの間に空洞を作り、そこに新鮮な空気を送り込んで冷却を助ける。 　この流路の外側に穴が開いていれば、気流がホイールリムに向かって吹き出し、タイヤのオーバーヒート対策に役立てることができる。 　主な問題点は、レギュレーションでブレーキドラムの表面は”連続的”であるよう規定されているため、穴を開けるのは厳密には認められていないということだ。 　F1技術規則第3条13.2には次のように定められている。 『各ドラムについて、ドラムと車軸の間の大きな空力的または熱伝達の流れを防ぐために、2つの注釈付き容積のうちアウトボードに、円周に連続した（360°の円弧の周りに）均一な空力シールが取り付けられていなければならない』（※JAFのF1規則日本語訳から抜粋） 　この穴が開けられているのは、フリー走行でドラムとホイールの温度をモニターするためのセンサーにアクセスするためのものだからだ。 　レギュレーションでは、エアロレーキのようなレギュレーション外のデバイスをフリー走行で追加することをチームに認めているが、予選でパルクフェルメが施行されると、マシンは完全にレギュレーションに沿っていなければならない。 　そのため、理論上はフリー走行で穴を開けたまま走行することは可能だが、予選以降はカバーをする必要がある。 　にもかかわらず、レッドブルは以前のレースでマクラーレンがブレーキドラムの穴を塞いでいないことに気づき、FIAに状況の説明を求めたようだ。 　情報筋によると、FIAはこの問題を調査し、非常に些細なことだと考えていたものの、マクラーレンがレギュレーションを完全に順守していることを確認するため、パルクフェルメコンディションでは穴を塞ぐ必要があることを念押ししたという。 　マクラーレンはオーストリアGPのスプリントレースと決勝レースを異なる仕様で走っていたようだ。スプリントでは穴が塞がれていなかったが、決勝レースでは小さなテープが貼られていた。 　しかしこのテープによる変更はマクラーレンのペースに大きな影響は及ぼさなかったようで、オーストリアGPの決勝レースではランド・ノリス（マクラーレン）がマックス・フェルスタッペン（レッドブル）と熾烈なバトルを展開。最終的に両者が接触した。 　また、イギリスGPでは変わりやすい天候によって、各チームともタイヤのオーバーヒートに悩まされることはなかった。 　しかし、ブレーキドラムの問題が世間の注目を浴びるようになった今、暑さで厳しいコンディションになることも多いハンガリーGPでマクラーレンのロングランペースがどうなるかに注目が集まるのは間違いない。