注目の新世代歌人・上坂あゆ美のエッセイ集。人間関係で起こした大事故を赤裸々に描く【書評】
いま「短歌」がブームだ。SNS上で短歌の会が開かれたり、リアルのイベントが開かれたり…特に若い世代で人気が高まっており、新世代歌人も続々登場している。2022年に第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』(書肆侃侃房)でデビューした上坂あゆ美さんも、そんな新世代歌人の一人。数々の短歌賞の選考もされている歌人の東直子さんが「自分の魂を守りながら生きていくための短歌は、パンチ力抜群。絶望を嚙みしめたあとの諦念とおおらかさが同居している」と評したその世界に、ぐっと心を掴まれた人もいることだろう。
そんな上坂さんは歌人だけでなくポッドキャスト番組『私より先に丁寧に暮らすな』のパーソナリティ、舞台など様々な活動をされているが、このほど出された初のエッセイ集『地球と書いて〈ほし〉って読むな』(文藝春秋)がクセになる面白さなので注目だ。切れ味よくパンチの利いた言葉と諦観と怒りとユーモアがまじりあうその文章世界は「痛くて切なくて、めちゃくちゃ笑える」とTVプロデューサーの佐久間宣行さんも絶賛している。 本書は様々な媒体で発表されたエッセイをまとめたほか、書き下ろし作品も多数収録している。一貫してテーマになっているのは、上坂さんがこれまでどうやって社会と折り合いをつけてきたのかについて。たとえば不倫にギャンブルにやりたい放題で娘たちのお年玉貯金を奪ってフィリピンに飛んでしまったお父さん、女海賊のように豪快で腕っぷしの強いお母さん、ギャルでヤンキーでトラブルメーカーのお姉さん…なかなかに個性的な家族に振り回されてきた自分について、あるいは真実を執拗に追求するあまり人間関係において大事故を起こしてきた自身の失敗についてなどを赤裸々に描いていく。ただし「たくさん傷つけられてきた自分」という自己憐憫モードではなく、独特のユーモアと鋭さがある諦観まじりの言葉たちは、毒や痛みや恨み言を「笑い」に変えていく。だから不思議に後味もいい。 あとがきで「自分の性質を踏まえた生き延び方を概ね把握するまでに、三十年弱もかかった。長かった。そういうのを学校で教えてくれていたらこんなに悩まなくて済んだのに。だからこの本には、学校では教えてくれない、昔の自分が知りたかったことをたくさん書いた」と上坂さん。彼女は決して不器用なわけではなく、むしろ直球で正直すぎるからこそ、あえてトライ&エラーを繰り返すことで「自分に合うもの」を探していくようなところがある。その生き方には極端さも多々あるけれど、普通の人はなかなかそこまではしないかもしれず、単純に「なるほどねー」と考え方のヒントになりそうなのも面白い。 なお、それぞれのエッセイに短歌が添えられている。このエピソードからこんな「心の風景」が立ち上がるのか――歌人の「変換力」を垣間見るようで、そこもちょっと新鮮だ。 文=荒井理恵