【石井館長連載#2】ミルコ・クロコップがうまくいった理由は臆病だからです
【石井館長が明かす年末格闘技の舞台裏(2)】2001年大みそかの「INOKI BOM―BA―YE」はイベントとしても大成功でした。メインの「安田忠夫VSジェロム・レ・バンナ(フランス)」(※1)が“跳ねた”んです。 【写真】安田忠夫が愛娘とダーッ! 安田選手は当時スターというわけではなかったので、下馬評はジェロムの圧倒的有利でした。それが大逆転でしたから。この試合を跳ねさせた立役者はTBSの樋口潮プロデューサーです。「世界陸上」「SASUKE」「スポーツマンNo.1決定戦」「筋肉番付」を手がけた彼はキャラクター付けが抜群にうまい。大みそかは家族で見るからみんなで感情移入ができるようにしないといけない。それでリングサイドにいた娘さんを連れてきて、勝った安田が娘を肩車して泣いた。まさに安田劇場です! そういう仕掛けは丁寧に彼はやりました。 もともとバンナは小川直也選手とやる話だったんです。ところが小川選手がいろいろ条件を出し、知らないところで記者を集めて会見をしたりした。だから僕も小川選手には悪いけど会見して「こういう理由で出ないんだよ」って説明するような事態になって安田さんが代役になったんですよ。でも、今思えばそれも面白かったんでしょうね。出る出ないが(笑い)。 そして大みそかで外せないのはミルコ・クロコップ。この年の8月に藤田和之選手に勝ってスター街道を駆け上がりましたよね。この大みそかは永田裕志選手と戦いました(※2)。「新日本VSK―1」というか「猪木さんVS石井和義」みたいな構図の中、永田選手って幻想があるじゃないですか。彼だったらミルコを止められるんじゃないかという。ところが藤田戦以降、ミルコがすごい自信をつけてタックル対策とかが完全にできてましたよね。打撃の選手が総合で戦うための見本みたいになりました。 ミルコがうまくいった理由? 臆病だからです。慎重で石橋を叩いても渡らない。攻めるように見せながら常に待って、相手が出てくるところに当てて、こなければちょこっと出す。出入りの距離感がめちゃくちゃうまい。逆にジェロムとかピーター・アーツのような“男前な戦い”をする蛮勇なヤツは出ていったところを組みつかれてやられちゃうんです。 今でいえば平本蓮君も久保優太君もそうですよね。慣れないうちは強い打撃が打てないけど、タイミングが分かってくると慎重に強く打てるようになるんです。すると寝技も対応できてくる。だからアンディ・フグがやったら向いていたと思います。力があるし慎重だし。彼がいたら格闘技の歴史が変わったかもしれないですね。 ※1 2ラウンド(R)2分10秒、安田がギロチンチョークで勝利。試合後に娘を肩車する姿がお茶の間を感動させた。 ※2 1R21秒、ミルコが左ハイキックからのパウンドでTKO勝ち。
石井和義