磯村勇斗が語る、これからの俳優に必要な姿勢とは 映画『若き見知らぬ者たち』インタビュー
今、映画ファンから最も次回作を熱望されている俳優の一人と言っていいだろう。磯村勇斗、32歳。『波紋』『渇水』『月』『正欲』と優れた映画作品に次々と出演し、昨年の映画賞を総なめ。地元・沼津で映画祭を企画するなど独自のアプローチで映画に関わり続けている。 【撮り下ろし写真】近年は社会派映画に多く出演し、最新作ではさまざまな理不尽に打ちのめされる“声なき者”を演じた磯村勇斗 磯村勇斗は、なぜこんなにも映画に愛されるのか。それは、彼が映画の力を本気で信じているからのように思う。そんな磯村の最新主演映画『若き見知らぬ者たち』が描いているのは、様々な理不尽と暴力。そして、それはただの虚構ではない。無抵抗な人々の幸せを打ち砕くようなニュースが今日もどこかで流れている現実を前に、映画は何ができるのか。これは声なき者に寄り添いながら、それでも希望を信じる磯村勇斗の祈りの言葉だ。
わかりやすい映画ばかりになるのは怖い
──いろんなオファーがある中、磯村さんがこの作品をやりたいと思った理由はなんだったんでしょうか。 まずは内山監督とご一緒できるというのが一番です。あとは、物語の構成ですね。物語の途中で、ある重大な出来事が起きるんです。このアイデア自体を思いつく人はいるだろうけど、実行しようとする人はなかなかいない。それを本当にやるのが面白いなと思ったし、理不尽な圧力や社会の皺寄せといった現代の問題をシンボリックに描けているところに自分が参加する意味を感じました。 ──内山監督の前作『佐々木、イン、マイマイン』はご覧になっていたんですね。 観ていました。若者特有のエネルギッシュなパワーを画にするのは普通のアプローチではできない。それを実現した内山監督ってどんな人なんだろうというのは、ずっと興味がありましたね。 ──実際に直接会ってみて、内山監督はどんな人だと感じましたか。 最初は怖い人だなと(笑)。でも、話してみるとちゃんと芯を持っている人だなと思いました。絶対的な意見を持っているから、何を聞いてもしっかりとした答えが返ってくる。役者にとっては、ものすごく信頼できる人です。 ──内山監督とはどんなことを話したのでしょう。 いちばんは、(磯村演じる)彩人と警察の関係性です。白人の警察官に押さえつけられて黒人男性が死亡したというニュースがありましたが、海外でそういう話は聞いても、映画で描かれているようなことが日本であるのか、というのが僕の中で実感がなかったんです。そうしたら、監督が実際にあった出来事をもとにして書いているとおっしゃって。であれば、これは撮るべきだなと僕の中で迷いがなくなりました。 ──この映画は、人の事情や背景をあえて描かないという試みをとっていますよね。滝藤賢一さん演じる警官の内面も観客には意図的に見せられていない。 僕はそれで良かったんじゃないかなと思います。おかげで受け手がいろいろと想像することができた。逆に、そこに変な意味をつけてしまうと表現としてチープなものになるんじゃないかという気がしました。 ──昨今、受け手にちゃんと理解してもらうために、物語の作り方が説明的なものになりつつありますが、この映画はあえてその流れに逆らっている。 僕は意義のある挑戦だと思いました。観る側が考えたり想像したりする余地のある作品をちゃんと届けていかないと、どんどん物語を読む力が失われていってしまう。わかりやすい映画を否定するつもりはありません。でも、そればかりになってしまうのは、ちょっと怖い。そういった意味でも、いい描き方だったと思います。 ──磯村さん演じる彩人は、難病を患う母を抱え、極限状態に追い込まれている人物です。あの絶望の淵に演者としてどう近づいていったのかを聞きたいのですが、準備期間はどれくらいありましたか。 確か1ヵ月くらいだったと思います。 ──その1ヵ月の間にどんなことを? 彩人がどれだけ不自由な中で生きているかを感じたいと思ったので、衣食住に関してなるべくストレスをかけるようにして過ごしていました。たとえば食であれば、決まったものだけを毎日食べ続ける。それもできるだけ淡白なものを。彩人は介護と労働のダブルパンチで疲弊している役なので、体重も絞って。もちろん健康第一なので、ちゃんとトレーナーのアドバイスを受けながらですけど、自分の体と心にあえて負荷をかけつつ、外見も内面も彩人に近づけていきました。 ──そうすることで心身にどんな変化が生まれてきましたか。 やっぱり暗くなっていきますよね。睡眠についても、自分の寝たいタイミングからあえてズラすようなことをやっていたので、日に日に気持ちが落ちていくようなところはありました。