トレイルはゼミ生の教材、自分の足で歩き教室では得られない無数の学びを得る
文教大国際学部教授 海津ゆりえさん 60
2011年3月の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)は、茅ヶ崎(神奈川県)にあった筆者の職場にも震度5弱の揺れをもたらした。震源地を知り、声にならぬ悲鳴を上げた学生の顔を今も鮮明に記憶している。学生たちと支援物資搬出を手伝いながら、現地に赴き、できることを探したいと願った。
機会が巡ってきたのは7月だった。親交のあった岩手県二戸市長から、「宮古に行きなさい」と山本正徳市長を紹介いただいたのである。今日まで続く同県宮古市とのご縁の始まりである。
筆者の専門はエコツーリズムである。エコツーリズムとは地域の宝を守り、伝え、持続可能な地域社会づくりに資する観光のこと。失ったものを数えるのではなく、残された宝を見つけ出し、東北に貢献したい人々が訪れる仕掛けを作ろうと、資源調査とツアー造成を進め、12年10月にエコツアーを2本催行した。
一つは黒森山にある黒森神社を詣でて神楽を鑑賞するツアー。もう一つは田老海岸から陸中真埼灯台に至る沿岸を歩くツアーである。それぞれ、40人近くの参加者の半分は宮古市民だった。
各所で神社総代会、神楽衆、漁協の方々などの温かい歓迎を受け、励ます側が励まされた。共に歩き、言葉を交わし、「またね」と言って別れる。ごく僅(わず)かな時間、心を通わせるだけで誰もが前を向けることを確信した。これぞ旅の力である。前者は、宮古観光文化交流協会と宮古市の共催で、今も続く。
そんな折、環境省のグリーン復興プロジェクトの構想を聞き、賛成した。トレイルモニターの講師を頼まれたり、管理運営計画づくりを手伝ったりと、いつの間にかみちのく潮風トレイル(MCT)とのご縁も深くなった。総延長が1000キロを超えると聞いた時は驚いたが、どれだけの物語が生まれるだろうと胸が高鳴った。旅人と住民双方が幸せになれるのだ。
現在、MCTはゼミ生の教材である。自分の足で歩くことで、教室では得られない無数の学びを得ることができる。見事にはまった学生たちは、いつしか自分たちで歩くようになった。次の世代へと、道は続いている。