直木賞受賞の川越さん「物語に都合の良い人生を歩む人は誰もいない」
第162回直木賞は、川越宗一(そういち)(41)さんの「熱源」に決まった。川越さんは、15日夜の記者会見で「現実感がないというか、今も信じられない気持ちがどこかにあります。どっきりカメラが継続していて、ハラハラしている感じです」と率直に語った。 【中継録画】芥川賞に古川真人さん「背高泡立草」、直木賞に川越宗一さん「熱源」 受賞者が会見
資料を広範囲に読み込んで小説に反映
川越さんは、1978(昭和53)年生まれ、大阪市出身。2018年の「天地に燦たり」で小説家デビューし、第25回松本清張賞を受賞。2作目の「熱源」が今回の直木賞にノミネートされ、受賞に至った。 「2作目で評価いただいたのはうれしいこと。もう少し自分の力を信じてこれからも期待に応えていきたい。自分の代表作は何かと聞かれたら、常に最新作ですと答えられるような作家活動をしていきます」と抱負を述べた。 受賞作は、19世紀後半から20世紀にかけての樺太(サハリン)が舞台。後に日本の南極探検隊に犬ぞり担当として参加したアイヌのヤヨマネクフ(後の山辺安之助)と、リトアニア生まれのポーランド人で文化人類学者のブロニスワフ・ピウスツキが、世の中の理不尽さに苦しみつつも懸命に生きる姿を描く。 選考では、資料を広範囲に読み込んで小説に再生産した点が評価されたという。「資料で人の人生を追いながら思うのは、物語では主人公は確固たる信念を持ち、矛盾なく行動するが、実際に生きている人はそうじゃないということ。物語に都合の良い人生を歩む人は誰もいないので脚色が必要になるが、どこまで(事実に)触って良いのか悩みました」 受賞作の題名にかけて「一番の熱源は」と問われると、「世の中には読むべき名作がたくさんありますが、『こういう題材で書かれた小説が読みたいのにない』時もあります。だから、自分で読みたい小説を書いてやろう、と思う。それが一番の熱源」と川越さん。次回作について「1、2作目のようにいろんな文化圏や国家、人々の集団における人と人との触れ合いや葛藤、ドラマ、そして融和をテーマに書いていきたい」と意気込んだ。 (取材・文:具志堅浩二)