住宅ローンの「がん団信」…コスパで選ぶ人に「ちょっと待って」と言いたいワケ
「がん保険は必要か」がしばしば話題になる昨今、住宅ローンに付帯する「がん団信」はコスパが良いのではないか、という意見を耳にした。今回は、がん保険とがん団信、どちらが頼りになるのかについて、整理してお伝えしたい。(ファイナンシャルプランナー〈CFP〉、生活設計塾クルー取締役 深田晶恵) ● がん団信はコスパが良い? がん保険vsがん団信 先日、あるビジネスサイトの編集部から「がん保険vsがん団信」という切り口で取材を受けた。 これまでにがん保険とがん団信のそれぞれに、特徴や必要性の有無についてコメントを求められることはあっても、並列に考えたことはなかったので、新鮮な気持ちで取材に臨んだ。 取材前に送られてきた質問は、主に次の二つだった。 (1)がん保険は必要なのか (2)必要ならば、がん保険と住宅ローンに付帯するがん団信の違いと、賢い付き合い方 担当編集者は、同僚からがん団信加入中にがんに罹患(りかん)すると、住宅ローンが何千万円残っていたとしても残高がゼロになることを聞き、がん団信はいわゆる「コスパ」がいいのではと思ったと言う。それで「がん保険vsがん団信」という切り口を思いついたようだ。 なるほど、こういうことを知りたい人もいるのだと、ちょっと驚いた。そこで、当連載の読者にも「がん保険」と「がん団信」を並べて必要性の有無をお伝えしようと思う。
● がんの治療費の目安は? 出費が長期にわたることに注意 まず、編集部からの一つ目の質問、「がん保険は必要なのか」について。 この質問に対する私の答えは、「人による」。これに尽きる。 保険は経済的リスクが発生したとき、自分の持っているお金で対処できない場合に備えて加入するもの。がん保険でいうと、がんの治療費を自分や家族の収入や貯蓄でカバーできるかどうかを軸に必要性を考えればよい。 では、がんの治療費はいくらかかるのか。 部位、ステージにより、治療法はさまざまであるが、仮に大腸がんの手術を受け医療費(10割相当額)に100万円かかったとすると、3割負担では30万円だ。 健康保険には「高額療養費制度」があるため、一定の限度額を超えると超過分は払い戻される。医療費が100万円を超える手術であったとしても、一般的な所得の人なら9万円前後の自己負担で済む。 これに入院中の食事代の自己負担(1食460円)や雑費などを含めると、月10万円前後の出費が目安となる。 10万円くらいなら、保険に頼らなくても収入や貯蓄でカバーできそうだ。 しかし、がん治療は他の病気に比べて長期間になるケースが多い。 がんの3大治療とは手術、抗がん剤治療、放射線治療だが、3大治療を全て受けることになると、治療期間は外来での治療を含め、1年前後かかる。 治療期間が1年にわたると、100万円前後の出費となるかもしれない(高額療養費の限度額に満たない月があると、必ずしも10万円×12カ月=120万円ではない)。トータルの治療費がいくらになるのかは、治療法によりケースバイケースだ。 ちなみに、昨今は、がんに罹患したからとすぐに退職をする人はほとんどいない。有給休暇を利用しながら、仕事を辞めずに治療を受けている人が大多数だ。主治医にも「退職せずに治療を続けられますよ」と言われるだろう。 収入をゼロにせずに、治療を受けるのが主流であることを覚えておきたい。