「室温約35℃」冷蔵庫は過酷な環境でも冷却し続けられるのか…?パナソニック「南草津工場」のスゴい実験
少量多品種を効率よく作れるミックス生産方式を今後も追求
利益率を上げていく上で工場の改革も必要になるが、それに対して太田常務は次のように語った。 「冷蔵庫は非常に物が大きいので、倉庫代や物流費などのコストが大きい。従来は大量生産型でラインに流していたが、我々は(バラバラの品種を同じラインで生産する)ミックス生産をずっとやってきた。これをさらに進化させていきたい。店頭で1台売れたらすぐに1台補充するために1日に全機種を作るのが究極の理想だとすれば、それに近い形を新工法を含めて追求していきたい。多品種少量でも低コストかつ在庫を抑えられる生産方式を今後も続けていきたい」(太田常務) パナソニック くらしアプライアンス社 キッチン空間事業部 冷蔵庫・食洗機BU 冷蔵庫モノづくり統括 冷蔵庫工場 工場長の浜端孝行氏は次のように補足した。 「ミックス生産は非常に多数の機種を毎日作れるので、市場にこまめに供給できる利点はあるが、ものづくりが非常に難しい点もある。作業者が部品を取る際に間違えないように、冷蔵庫のバーコードを読むと部品のランプが光り、そこから部品を取るなど、作業者が迷わないようなシステムにしている。このような取り組みを中心に進めている」(浜端工場長) 記者会見の前後には冷蔵庫工場の見学会も実施されたので、その様子も紹介しよう。
“パナソニッククオリティ”を実現するための検査工程
太田常務は、同社の“ものづくりのこだわり”として「設計品質」、「製造品質」、「製品審査」の3つを挙げた。 「設計品質としては日本を含め非常にさまざまな気温や湿度があるので、しっかりとそれに合わせた冷却試験を実施している。製造品質としてはここの工場の特徴である『ミックス生産』がお客様の多種多様なニーズにタイムリーに対応する。それから全台で性能検査もしくは品質検査をすることで品質を確保している。製品審査は創業者である松下幸之助が掲げた『お客様大事』の精神を受け継ぐ部門で、事業部長の私の直下で設計部門や製造部門に対してお客様視点で担当している」(太田常務) 設計品質を担保する冷却試験や、製造品質を担保する性能検査や品質検査の様子も紹介しよう。 設定した室温と湿度に保つ恒温室では、冷蔵庫が過酷な環境でも冷却し続けられるかをテストしていた。 実際には冷蔵庫内に数多くのセンサーを設置し、開閉時の温度変化を計測して風路の見直しなどを図るという。 ドアの開閉試験や、ガラスドアの強度試験などの様子も公開された。 ドアの開閉試験では、機械を使って家庭で使う20年分(回数は非公開)の開閉試験を行う。24時間稼働し続けて、約2カ月かかるとのことだ。ドアのパッキンなどが硬くなって変形しやすくなる約5℃の室温下で実施している。 ガラスドアの強度試験では、ビール瓶を一定の角度まで上げた後、振り子のように振り下ろされることでガラスドアの強度を確認していた。 キッチンにあるさまざまな「硬いもの」の中で、金属のフライパンなども検討したのだが、実際には金属は衝撃を受けると変形してしまう。キッチンにあるものの中で最も硬くて変形しにくいのがビール瓶だったとのことで、ビール瓶を用いて検査が行われている。ちなみに毎秒220cmのスピードが出るように角度を設定しているとのことだった。 太田常務は記者会見の最後に次のように語っていた。 「草津で作る以上、『パナソニッククオリティ』をより磨き上げて日本の皆様の暮らしに寄り添い、愛していただける高品質と高品位な商品を届け続けたい。それによって2030年に今の1.5倍の販売を目指し、社会や地球全体の食文化を支えていきたい。今の段階で改革を進めているところで、2年以内には世界トップクラスの生産効率を出せる工場になると思っている」(太田常務)
安蔵 靖志(IT・家電ジャーナリスト)