2名死亡の首都高タクシー横転「事故の瞬間」の衝撃動画が問いかけるタクシー業界の“構造的問題”
フロントガラスは大破、ボンネットは大きくヘコみ、周辺には車両のパーツや衝突の際に剥がれ落ちたトンネルの金属片が散らばっていた――。 【閲覧注意】衝撃の事故現場…首都高タクシー2名死亡事故・車両横転の「決定的瞬間」 5月11日午後7時頃、首都高湾岸線の多摩川トンネル内でタクシーが横転。運転手と乗客、2名が死亡するという事故が起きた。全国紙社会部記者が解説する。 「トンネル内の縁石に接触した衝撃で壁に衝突。その衝撃でタクシーは何回転もしました。運転手に目立った外傷はなかったため、事故死ではなく病死とみられています。死亡した乗客は『出光興産』の子会社『出光タンカー』の松尾一郎社長(61)というVIPだったこともあり、大きな注目を集めました」 FRIDAYデジタルは、タクシー業界関係者から事故の動画を入手した。 動画を見ると、走行中のタクシーが突如、制御を失い、縁石に勢いよく衝突していたことがわかる。タクシーが横転したエリアの近くを多数の車両が通行していたが、二次被害に繋がらなかったのは不幸中の幸いだ。一歩間違えれば多数の車を巻き込んでいた。ましてや場所はトンネル内。大惨事となっていたはずだ。 タクシー業界内からは「単なる突発的な事故として片付けてよいのか」という声があがっている。都内のタクシー会社代表がそっと打ち明ける。 「今回、事故を起こした運転手は健康診断を受ける度に高血圧で引っかかっていたと聞いています。もし、運転中に病死したのであれば、心筋梗塞か脳梗塞の可能性が高い。今回の事故が業界に与えた影響は大きく、ドライバーの健康管理に関する法改正に発展する可能性も囁かれています」 なぜ、健康不安をかかえる運転手が野放しになっていたのか。このタクシー会社代表は「背景に昨今のドライバー不足がある」と説明する。 「コロナ禍以降、慢性的なドライバー不足が続いており、『とにかく人を入れろ』と各社、人材確保に躍起になっています。ただ、ドライバー1人あたりの採用コストが40~70万円と高騰しているため、採用増には至っていません。日本版ライドシェアの解禁の影響も現場に出ている。人手不足から管理職がライドシェアのドライバーを担っている社もあるのです。労務や安全管理に回す人員が不足するなか、『多少の健康問題に目をつぶってもドライバーを採用しよう』という社も出てきた。事故の背景には、タクシー業界の構造的な問題があると感じています」 今回、事故を起こした運転手が所属していた「すばる交通」に運転手の病気について事実確認の連絡をしたところ、「グループ会社である日本交通へ問い合わせてほしい」と答えた。改めて日本交通に当該運転手の健康状況について聞くと、以下のような回答があった。 「当該事業者および日本交通グループの基準において問題ない判断で乗務していたのは事実ですが、健康状態についての詳細は当該乗務員の個人情報にあたり、ご遺族からもご了解が取れておらず、原因について捜査中にある現段階において、弊社としては公表することはできない状況です」 その上で、再発防止策についてはこのように答えた。 「日本交通においてはこれまで、走行データ(走行時間、速度、急加減速回数等)の見える化、ドライブレコーダー映像を用いた研修、運転操作訓練の実施など、社員の安全教育に取り組んでまいりました。(中略)’22年9月には現場が主体となる『健康管理プロジェクト』においてSAS検査(注・睡眠時無呼吸の有無と程度を調べる検査)、血圧測定、脳ドック受診など管理強化を行い、グループ各社へも展開を進めているところでありました。今回の事故を受けて当該の事業所においては取り急ぎ、全職員・乗務員に対して以下の通りの対策を講じております。 ・緊急の交通安全研修会の開催 ・始業点呼時において情報の共有と交通安全への注意喚起 ・各人の健康診断結果の再確認 ・各人の勤務状況、休憩時間の再確認 また日本交通グループとしてもグループ各社が参加する緊急の会議を開催して情報を共有しており、更なる全乗務員へ交通規則遵守の注意喚起、前述の『健康管理プロジェクト』管理項目の再確認と管理の徹底を指示しています」 業界専門紙の東京交通新聞によれば、’23年度に東京で起きたタクシー・ハイヤーが当事者となった死亡事故は8件あるという。タクシーの事故自体は、年々減少傾向にある。それでも、突発的な事故が起これば、安全・安心を掲げるタクシー業界にとって厳しい目線が向けられる。さらなる安全基準の徹底が求められることは間違いないだろう。
FRIDAYデジタル