人間国宝の友禅作家、森口邦彦が見出した「作家 須藤玲子」
日本のテキスタイルデザインの極地の一つである伝統工芸「友禅」をパリで修得したデザイン思考と融合し、発展させた人間国宝の友禅作家、森口邦彦は最高峰の「テキスタイルアーティスト」の一人だ。その活動は三越のショッピングバッグのデザイン、ジュエリーブランド「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS)」とのコラボレーションなど、きものだけにとどまらない。そんな森口氏は2001年、後に日本を代表することになるテキスタイルデザイナーの須藤玲子さんを「発掘」し、京都での初の個展をプロデュースした。まさに「作家 須藤玲子」の誕生に立ち会い、仕掛けた張本人なのだ。日本のテキスタイル界の巨人2人の関わりに迫った。 【画像】人間国宝の友禅作家、森口邦彦が見出した「作家 須藤玲子」
森口氏と須藤さんとの出会い
須藤はこれまでに、多くの人と出会い、その出会いを原動力にして布づくりを加速させてきた。全国各地の生産者、先端技術の研究者、協働する建築家やインテリアデザイナー、須藤の布の価値を大いに認めるクライアント……。
そして須藤は、同じく「日本の布」に関わる要人たちとも親交を深めている。そのひとりが、友禅作家であり重要無形文化財(人間国宝)の森口邦彦氏だ。アメリカ、イギリス、フランス、スイス、香港。須藤は日本国内のみならず、世界各地で展覧会を開催してきた。その第一歩となったのは2001年、京都芸術センターで開催された「布・技と術」と題した展覧会だ。このとき須藤に白羽の矢を立てたのが、ほかでもない森口氏なのである。
2000年に開館した京都芸術センターの設立前から関わり運営委員長を務めていた森口氏が、東京・六本木の「NUNO」の店舗を訪ねたのは2000年。「8月22日です」。当時の手帳を見返しながら森口氏が言う。開館一周年を記念する展覧会の候補に須藤の名前が挙がっていた。「須藤さんが運転する自動車にトラブルがあったらしく、約束の時間になってもやって来ない。ですが待つ間に店内をくまなく見せてもらえ、膨大な仕事の一環を垣間見ました。テキスタイルデザインという仕事への情熱に、深く感動したのをおぼえています」(森口氏)。なんと車のタイヤがパンクしたという須藤が遅れること45分、そのときの彼女の慌てぶりを思うとこちらまで胸が締め付けられそうになるが、森口氏の目に映る須藤は違っていて、「布づくりへの情熱とはおよそかけ離れた涼しげな感じで、この素敵なギャップになにがしかの可能性を抱き、個展のお願いをしました」。