EVとの差別化、エンジン車の意地を感じさせるデザインとは?【BMW新型X3デザイン探訪】
11月28日に日本デビューしたBMWの新型X3。斜め線を取り入れた大胆なグリルが目を惹くが、注目すべきはそこだけではない。BEVの次期型iX3から始まる新世代のデザインを先取りしているのだ。 【写真】識別ポイントはキドニーグリルの斜め線の入り方 TEXT:千葉 匠(CHIBA Takumi) PHOTO:BMW/編集部 キドニーグリルに斜め線 日本導入された新型X3はいずれも4輪駆動のxDrive 仕様で、「20 xLine」、「20d M Sport」、そしてハイパフォーマンスな「M50」の3タイプ。識別のポイントはグリルだ。 垂直線と斜め線を組み合わせたグリルパターンは新型の特徴のひとつだが、20 xLineではそれがシルバー塗装されてクッキリと目立つ。20d M Sportは黒一色になり、ラインの立体感だけでパターンを表現。M50も黒一色で、BMWでは珍しい横線パターンだ。 ちなみに左側キドニーにはレーダーが内蔵されており、そのカバー部分はフラット。レーダーの性能を担保するため凹凸を付けられないからだ。20 xLineは周囲の凸形状のラインからカバー部分へとシルバー塗装をつなげているが、20d M SportとM50にはそれがないのでラインが途切れてしまう。 いや、カバー部分に薄くラインがあるようにも見えるのだが(黒い半透明樹脂の裏面にシルバー塗装しているのかも?)、デザイン意図が最も表現できているのは20 xLineに違いない。20d M SportとM50は黒一色のスポーティさを優先したのだろう。 グリルの輪郭には5シリーズや7シリーズなどと同様に、「アイコニックグロー」と呼ばれるイルミネーションが組み込まれている。自動車業界全体のトレンドとして、廃液や電力の環境負荷を考慮してメッキを減らす方向だ。そこでメッキがなくてもキドニーの輪郭形状が際立つように、BMWはシルバー塗装にライン発光を組み合わせる手法を採用し始めているのである。 ノイエクラッセとの差異化 グリルの横線パターンはXMで前例があるが、斜め線は初めて。BMW本社のリリースには「新鮮なタッチを加える」と、その狙いが書かれている。しかし他にも理由がありそうだ。 先代X3にはBEV版兄弟車のiX3があったが、新型はマイルドハイブリッドのICEだけになる(欧州にはPHEVも用意)。今年3月に発表されたビジョン・ノイエクラッセXが予告したように、次期型iX3は新しいi3と共にBEV専用のノイエクラッセ・プラットフォームを採用するからだ。 これまでBMWはICEとBEVの兼用プラットフォームで効率良くBEVのラインナップを増やしてきたが、少なくとも3シリーズ級では、その戦略を大転換。従来のCLARプラットフォームを踏襲するICEの3シリーズ/X3と、新世代ノイエクラッセ・プラットフォームのi3/iX3を作り分けることになる。 となればデザインを差異化しなくてはいけない。ICEとBEVではおのずとプロポーションが異なってくるはずだが、グリルも大事なポイントだ。ノイエクラッセXは70~80年代のBMWと同様に、横長グリルと縦長・幅狭のキドニーを組み合わせていた。スクープ写真を見る限り、次期型iX3も同じような顔付きになりそう。それに対して新型X3は、BMWのSUVでお馴染みの大型キドニーを踏襲する。 つまり次期型iX3とは顔付きがまったく異なるわけだが、そこに「もうひと味」を加えるのがグリルの斜め線なのだろう。ICEらしく大きなキドニーを採用した結果、先代との差異化あるいはX1やX5との差異化が不足したため、グリルパターンで新型X3の独自性を表現したとも解釈できる。 ちなみに4シリーズで採用したような縦長キドニーをSUV系に使わないのは、グリルの下端が低くなると、SUVで大事なリフトアップ感が失われるからだろう。新型X3ではグリルの下に黒いガーニッシュを設け、ボディ色で見える部分の視覚的な重心を引き上げている。 新世代を先取りするカタマリ感 サイドビューのシルエットで、先代と最も違うのはボンネットが高くなったこと。ウインドシールドの下端はボンネットのかなり下まで延びているので、どうやらカウルの位置は先代のままのようだ。つまりボンネットを高くしなくても構造的には成り立つわけで、デザイン意図によってボンネットを上げたと推測できる。 デザイン意図のヒントは、BMW本社のプレスリリースにある「新しいデザイン言語により、ほとんど一枚岩のような印象を与える」との文言である。「一枚岩」とはつまり、ひとカタマリということだ。 伝統的にBMWはベルトラインを境にロワーボディの上にキャビンを載せるという立体構成を基本にしていたが、境界線をなくしてフォルム全体をひとカタマリに見せるのが「新しいデザイン言語」のひとつの要素だ。それは昨年のモビリティショーに展示されたビジョン・ノイエクラッセ(次期型I3の予告編)でも、前述のノイエクラッセXでも示されていた。 新型X3も例外ではない。ボンネット両サイドの稜線が滑らかにAピラーへと立ち上がる。サイド見切りのボンネット側面とフロントフェンダー面は折れ目なくつながり、それがショルダー面(ベルトライン下の斜面)へと延びていく。そうやって「一枚岩」のカタマリ感を表現しているのだが、ここで大事になるのが高いボンネットだ。 ボンネット/フェンダーとショルダー面のつながりを担保するためには、ベルトラインの勢いをAピラーの根元でしっかり受け止めなくてはいけない。言い換えれば、ベルトラインよりボンネットを高くする必要がある。「一枚岩」にするための鍵が高いボンネットだったというわけだ。 ボディサイドにICE車の意地 iX3に採用されるであろう「一枚岩」のデザイン言語を先取りしたとはいえ、そこはやはりICE専用車だから、面の表情にはICEらしい工夫が見られる。 再びBMW本社のリリースを引用すると、「ゆったりとしたバランスのサーフェスと数少ない明快なラインの組み合わせにより、(要素を)必要最小限にしたエクステリアを構成している」とある。なるほどラインは少ない。サイドビューではショルダーラインとドア下部の折れ線の2本だけだ。ビジョン・ノイエクラッセ/同Xはショルダーラインまで省略していたが、ラインの少ないシンプルさも新しいデザイン言語のひとつと考えてよいだろう。 もうひとつの「ゆったりとしたバランスのサーフェス」という狙いは、ショルダーラインから下の映り込みを見ればわかりやすい。具体的には前輪からリヤドア下端あたりに向けて凸断面が延び、後ろ下がりの凹断面を挟んでその上に、もうひとつの凸断面が後輪に向けて延びる。凸も凹も控えめなので、映り込みを見て初めて気付くような断面変化だが、これがまさに「ゆったり」とした表情を醸し出すのである。 クリーンなイメージを訴求したいBEVでは、面を抑揚させて筋肉質的な(脂ぎった)表情になるのを避けるため断面変化を抑え、映り込みも水平に整えるのがトレンド。ビジョン・ノイエクラッセXもそれだったし、量産iX3(次期型)のスクープ写真を観察すると、カモフラージュ姿ながらも断面変化を抑えた水平基調のボディサイドが見て取れる。 新型X3はそうしたBEVの文法とは明らかに違うデザインだ。タイヤを起点・終点とする二つの凸断面で、4輪の踏ん張り感という伝統的な価値観を表現する。次期型IX3から本格的に始まる新しいデザイン言語を先取りしつつ、ICE車としての意地も感じさせるデザイン。じっくり味わってほしい。
千葉 匠