「バイデンvs.トランプ」の大統領選を控えるアメリカで進む「ディープフェイク対策」…日本でも求められる「選挙管理委員会」の備え
訓練を実施した米アリゾナ州の選挙管理委員会
そんな中、米アリゾナ州の選挙管理委員会が、興味深い取り組みを行っている。それは選挙戦中でディープフェイクによる攻撃が行われた場合を想定した、一種のセキュリティ訓練だ。 ご存知の通り、米国は今年、大統領選を控えている。今回はバイデンvs.トランプという、4年前の戦いの再現となったこともあり、いつにも増して注目度が高い。当然ながらディープフェイクの悪用が予想されており、それに対処するために、実際の攻撃を想定した訓練が実施されたというわけである。 これはアリゾナ州の州務長官アドリアン・フォンテスが主催したもので、ニューヨーク大学のブレナン司法センターなど関連組織・団体からの協力を得て実施された。同センターの報告によれば、訓練にはアリゾナ州の14の郡から選挙管理者やIT担当者、法執行機関、緊急管理サービスが参加し、さらにCISA(アメリカ合衆国サイバーセキュリティ・社会基盤安全保障庁)など連邦政府の関連組織も同席。そして2日間かけて、AIが生成した偽メールや音声、画像(州選挙セキュリティオフィスから送られたように見えるフィッシングメールや、偽の裁判所命令を指示する音声ディープフェイクなど)を使用し、選挙管理者がどのように対応するかの練習を行った。訓練の各日の終わりには、参加者が学んだ教訓や追加の準備ステップについて話し合う、デブリーフィングも行われたそうである。 ちなみにこの訓練の結果、次の7つの教訓がまとめられている。 1. AIにできることを理解しておく 2. オンライン上でのプレゼンスを管理する 3. 迅速なコミュニケーションに備える 4. サイバーセキュリティと物理的セキュリティのベストプラクティスを採用する 5. 地元メディアやその他のパートナーとの関係を築き、強化する 6. エスカレーション計画を用意しておく 7. 法的支援のネットワークを準備しておく まるで自然災害や大規模事件への対応のような教訓だが、それだけディープフェイクが選挙に、そして民主主義にとって大きな脅威となっていることの現れだろう。 ブレナン司法センターが訓練について取りまとめた報告書は、「2024年の米国選挙における真の課題は、AIが扇動者たちに、わずかなコストで、しかもこれまでよりも洗練された形で、こうした攻撃の規模を拡大する新たなツールを提供することである」という言葉で締められている。残念ながら、こうした簡易化や低コスト化の波は、ますます大きくなると考えられる。日本でも同様の訓練を実施することが、喫緊の課題と言えるのではないだろうか。
小林 啓倫