大雨の中、単独登山中に姿を消した女性 涙ながらに「今すぐ母の元へ行きたい!」と訴える息子に捜索隊がかけた言葉は
「山に出かけた家族が、帰ってこない――。」 【写真を見る】女性が道に迷ったと思われる「現場」の写真 たしかに“季節”が違うと分かりづらい
民間の山岳遭難捜索チームLiSS(リス)のメンバーと代表の中村富士美氏は、思いも寄らない事態に戸惑う家族から依頼を受け、山へ捜索に向かう。 60代の女性が1泊2日の予定で奥秩父の山へ出かけ、連絡が途絶えた。大雨が降る中、彼女は一体どこへ……? 夫と3人の息子たちから依頼を受け、捜索が始まる。 現場のリアルな様子を、中村氏の初著書『「おかえり」と言える、その日まで 山岳遭難捜索の現場から』より一部抜粋してお届けする。 ***
どうして、このルートを選んだのか?
捜索チームは、まずYさんの登山予定ルートを実際に歩いて検証し、道に迷いそうなポイントや滑落危険箇所の目星をつけた。 彼女の足跡をたどりながら、私には、どうしても腑に落ちない点があった。 なぜ、Yさんはこのルートを選んだのか? このルートは、少し特殊だ。 登山地図に実線で示される「一般登山道」ではないのだ。整備されていないため、登るにはコンパスやGPSといった装備と、それらを利用して地図や山の地形を読む高度な技術、そして人の手の入っていない山の中を歩くための、かなりの登山経験を必要とする。いわば「上級者向け」である。 ご家族によると、Yさんはいつも仲間たちとガイドツアーを利用して登山をしていたという。ひとりで山に入るのは、おそらく初めてかせいぜい数回目だと思われた。このルートを選ぶのには、力不足だと言わざるを得ないだろう。 ルートの入り口自体は、一般登山道沿いにある。右手に伸びる山道を進めば、飛龍山(ひりゅうやま)へまっすぐに通じる。そして、左手に進むとYさんが取ったルートになる。 ここは山の裾野だ。辺りには木が生え、足元一面に笹が生い茂る。登山道も、整備されているとはいえ、実際は登山客たちが長年踏みならしたため、そこだけ草が生えずにうっすらと土が見えて「あぁ、これが登山道かな」と判断できる程度だ。 周囲に広がる木のうちの1本に、古い赤いテープが巻かれている。これが、一応ルートの分岐の目印となっている。目立つ看板が立っているわけでもなく、何本も生えている木のうちの1本に、ただテープが巻かれているだけ。テープそのものも色が褪せ、木肌とあまり区別がつかない。目印というには小さすぎる。捜索に入った当初、私も、この赤いテープの存在を見逃してルートの入り口が分からなかった。 果たしてYさんが、この目印に気づけたのだろうか。それとも、Yさんは以前にもこのルートを登ったことがあり、覚えていたのだろうか。 それが一番の疑問だった。 Yさんのことを、もっと詳しく知りたい。 そう思った私たちは、いつもYさんと一緒に登っている友人に話を伺えないか、ご家族を介してお願いをした。