映画『オッペンハイマー」の腕時計は何を語るのか。
映画『オッペンハイマー』のクリストファー・ノーラン監督は、ハミルトンを“起用”した。ヴィンテージモデルは何を語るのか? 時計ジャーナリストの広田雅将が、紐解く。 【写真を見る】ハミルトンの名作時計をチェック!(全13枚)
クリストファー・ノーランが監督を務める映画『オッペンハイマー』。賛否は聞いていた が、筆者は是非、この目で見たいと思っていた。理由は、ノーランが製作したから。彼の手がけた『ダンケルク』は、時計の時代考証が完璧だったのである。と考えれば、オッペンハイマーの出演者たちも、持ち主にふさわしい腕時計、その人の人生を感じさせる腕時計を着けているに違いない。 クリストファー・ノーランは、協力者たちに恵まれていた。例えばダンケルクに出てきたオメガのパイロットウォッチ。年代も形式も完全にマッチしていたのは、オメガが全面的に協力したためだ。本作も例外ではなく、わざわざハミルトンが、出演者たちにふさわしい腕時計を探し出したという。 映画『オッペンハイマー』で使用されたハミルトンのヴィンテージ時計。アール・デコ調の装飾的な数字を備えたクッションB(左)、黒と白がシンプルなレキシントン(中)、アプライド のインデックスが施されたエンディコット(右)。 オッペンハイマーの上映時に配られた資料にはこうある。「(衣装デザイナーの)マイクロニックはキリアン・マーフィー演じるロバート・オッペンハイマーの意匠を、彼が身につける男性服飾品を通して上品な趣味が現れるようにデザインした」 時計も同様だ。オッペンハイマーには、「クッションB」、「エンディコット」、「レキシントン」という上品な3モデルが、妻のキティ・オッペンハイマーには、14Kゴールドの華麗なレディハミルトンA-2が、そしてオッペンハイマーの協力者であるレズリー・グローヴスには、パイピングロックとブラックのミリタリーウォッチが選ばれた。なるほど、いずれも演じられたキャラクターにぴったりに思える。 もっとも、ノーランらしさを強く感じさせたのは、ハミルトンではない腕時計を着けていた人たちだった。例えば、後にオッペンハイマーの敵となる、ルイス・ストローズ。衣装デザイナーであるエレン・マイクロニックは、成功した金融家の彼に、金張りのエキスパンションバンド付きの、おそらくはスイス製の高級時計を着けさせた。典型的な富裕層であるオッペンハイマーと、成金のルイス・ストローズ。2人の対比は、腕に巻かれた腕時計が端的に示している。