『ステラーブレイド』サントラ配信記念インタビュー。キム・ヒョンテが追求する世界に似合った音楽を作成。『FF13-2』“森カリオペ”の影響を受けた【Stellar Blade】
SHIFT UP初となる家庭用ゲーム機向けゲーム『Stellar Blade』(『ステラーブレイド』)の発売から約5ヵ月。満を持してオリジナルサウンドトラックがリリースされるということで、サウンドを担当したSHIFT UPスタッフと、一部楽曲の歌詞とボーカルを担当した高城みよさんにお話を伺った。 【記事の画像(7枚)を見る】 Hwang Jooeun(ファン·ジュウン): 『Stellar Blade』サウンドディレクター(文中はファン)。SHIFT UP所属。『The War of Genesis』、『西風の狂詩曲』、『アスガルド』、『トキメキファンタジーラテール』、『タワー オブ アイオン』、『OVERHIT』などのタイトルで音楽やサウンドデザイン、サウンドディレクターを担当した。初めて担当した『The War of Genesis』は、1995年のタイトル。 Cho Hyunmin(チョ·ヒョンミン): 『Stellar Blade』コンポーザー(文中はチョ)。SHIFT UP所属。『デスティニーチャイルド』のサウンド全般の制作も担当。Benicxというアーティスト名でも活動中。 Lee Youngjee(イ·ヨンジ): 『Stellar Blade』コンポーザー(文中はイ)。SHIFT UP所属。ゲームの音楽を手掛けるのは『Stellar Blade』が初めて。 高城みよ(たかしろ みよ): フリーのアーティスト(文中は高城)。『Stellar Blade』では、作詞、およびボーカリストとして参加。 ――MONACAに曲作りを依頼することになった経緯を教えてください。やはり『NieR(ニーア)』シリーズの影響はあったのでしょうか?: ファン: 音楽でゲームの特徴を新たに定義したい、というのが狙いでした。 『Stellar Blade』の荒廃とした美しいフィールドと、MONACAならではの情緒が合わさって織りなすものに期待し、おもしいものをいっしょに創ることができるのではと思いました。 『NieR』シリーズの影響がまったくなかったとは言えないですが、目標にしていたわけではありません。MONACAの皆さんも、『NieR』とは違った、新しいイメージのものを作りたいと言っていたので、お互いに目指す方向は一致していました。『Stellar Blade』ならではのスタイルを作り上げることが重要でした。 MONACAは、岡部啓一氏が代表を務める音楽スタジオ。アニメやドラマなど、ゲームに限らず多くの作品の音楽を手掛けてきた。『NieR』シリーズもそのひとつ。 ――SHIFT UPとMONACAでどう役割(曲)の分担を決めたのですか?: ファン: まずサウンドディレクターの私が曲のスペックや方向性を決めます。それに基づいて、お互いに意見交換しながら曲を制作していきました。最初は3曲の制作をお願いすることからスタートしましたが、MONACAさんの曲が本作に新たな楽しい要素を加えてくださったので、枠を増やし、最終的には14曲を制作していただきました。 SHIFT UPのサウンドチームは、インハウスというメリットを活かし、より能動的に制作しました。完成した曲をベースに編成をアレンジすることで、より効果的に意図を伝えようと。新しく意図を定義した曲をもとに、能動的に編成を拡張していきました。 キャンプのBGMは、韓国のジャズアーティストであるMothervibesさんが制作を担当したのですが、Mothervibesさんは個人のアルバムを作る感覚で作業をしてくれました。これは、『Stellar Blade』の世界に、最初から存在していた音楽ということがコンセプトだったからです。また、プレイステーション 5のメニュー画面で流れる曲もMothervibesさんの曲です。なので、ゲーム外の世界にも存在する曲とも言えますね。 ――SHIFT UPとMONACAのやりとりはリモートが多かったと思うのですが、みなさんは直接お会いしたことがありますか? 印象はいかがでしたか?: ファン: 曲を制作している最中はメールでやり取りしていましたが、SHIFT UPで制作している曲のレコーディングを日本で行う際、MONACAさんがサポートしてくれて。それをきっかけにMONACAさんのスタジオへ訪問し、直接お会いしました。 その後、SHIFT UPが制作した曲とMONACAさんの曲のオーケストラ収録を、同じ場所(Tokyo Sound City)、同じ構成で行った際に、お互いに絆のようなものが生まれたのではないかと感じております。MONACAさんの斬新さと貫禄が同時に伝わってきました。 ゲームが発売された後も、個人的にMONACAさんのスタジオにお邪魔させていただきました。収録のために訪問したときにはできなかった話ができてとてもうれしかったです。私がスイーツが大好きという話しをたら、おススメのスイーツを紹介してくださったり。実際に買って食べてみたらおいしくてて、その味が印象に残っています。 イ: 日本でレコーディングを行ったとき、直接お会いしていろいろお話ができました。MONACAの皆さんはとても親切で、プロフェッショナルな方々でした。私は日本語があまり話せませんが、通訳してくれるメンバーを介して、MONACAの作曲家の皆さんとも、楽しく話し合うことができ、レコーディングのときは仕事に集中し、休みの時間には冗談を交わしたりしながら過ごしました。 チョ: 開発中は、MONACAさんから送られてくる曲がとてもプロフェッショナルなものばかりで、手の届かないところにいらっしゃる実力者だという印象がありました。そのため、最初は少し緊張していましたが、実際にお会いしてみたら、とても愉快で、親切で、私も気楽に接することができました。レコーディングをいっしょに進行しながら、いろいろ学ばせていただきました。このような方々と同じ作品でお仕事ができて光栄です。 ――曲の数やテイストは、ディレクターのキム・ヒョンテさんのオーダーによるものですか?: ファン: 私は、本作の開発プロジェクトが半分くらい進んているときに合流しました。合流してからは、音楽について全般的なリニューアルを図り、 『Stellar Blade』のサウンドのアイデンティティを新たに定義したいと思いました。曲数だけでなく、演出方法の面でもそうしたいと考えました。 私は多くの曲を多様な方式で編成することが好きです。そして、ゲームの特徴を音で表現することを追求しています。そのため、このゲームのいちばんの大きい特徴である、ディレクター(キム・ヒョンテ)が追求する世界に似合った方向性にすることが重要で、このゲームの特徴的なアートにふさわしいサウンドを作りたいと思いました。 キムは音楽スタイルについては好き嫌いがハッキリしています。彼からのオーダーを意識しつつ、反映しようと努力しましたが、私自身の世界観に対する解釈が占める比重も高いと思います。 ――どのように曲のオーダーがくるのですか? ファン: ほかのチームから曲についてオーダーをいただくことはほとんどありません。曲の方向性は、サウンドディレクターとしておもに私が決めました。曲の例を挙げる場合もあれば、参考になる画像やキーワードで伝える場合もあります。 曲の例を出す際は、その曲に近いものを作りたいというわけではなく、曲を聴いたときに湧き上がる感情の深さを説明するための参考資料として使いました。ゲームの中で多彩な楽しみ要素を提供するために、バリエーション制作を作曲家にオーダーしたことはあります。 ほかには他ジャンルへのアレンジ、同じ曲で別のボーカルを採用、別の演奏者を採用するなども。演出のためにトラックを分離したり、曲の構成を変更するようにオーダーをしたこともありました。 イ: 音楽に関するオーダーをもらうだけでなく、自分から提案することもありました。ふと「こういう曲を作ってみたい」といったひらめきがくることがあり。そのときは一旦自分で曲を作ってから、サウンドディレクターに聴いてもらい。その後、ゲームに採用してもらえることもありました。 ――曲作りで参考にしたゲーム、もしくは映像作品、アーティストなどは存在しますか? ファン: 『ファイナルファンタジーXIII-2』、“凛として時雨”、“森カリオペ Mori Calliope”、『serial experiments lain』(シリアルエクスペリメンツレイン)といった日本のゲームやミュージシャンから影響を受けました。MONACAさんとのコミュニケーションのために、『ドラッグオンドラグーン3』、『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』、『ソウルハッカーズ2』、『結城友奈は勇者である』など、MONACAさんが音楽を手掛けるタイトルにも注目しました。 もっとも、『Stellar Blade』ならではの世界を作り上げることが重要でした。ザイオンの中にあるバーのBGMの方向性を考えるとき、Mothervibesさんの曲を参考にしていましたが、結果的には直接参加していただき、バーではなく別の場所の曲を作っていただくことになりました。 イ: 曲を創作をする際、私は“表現の自由”をもっとも重視します。そのため、自由な感性を持つアーティストの方々からたくさんインスピレーションを受けます。 当時、私はヨコオタロウさんの作品の世界観に魅了されていて、その中でも『ドラッグ オン ドラグーン』の世界観が大好きです。あのように歪んだ美を表現できることに感銘を受けました。それで『Stellar Blade』では、どのような美を表現できるかを考えながら、独特な世界観を持つ作品を参考にしました。『攻殼機動隊』、『ファイナルファンタジー』、『ゴッド・オブ・ウォー』などです。 チョ: 制作中は、ディレクター(キム・ヒョンテ)が好きな作品という理由で 『攻殼機動隊』に関連する作品をひと通り見ました。初期の作品も本当に好きですが、とくに菅野よう子さんが音楽を手掛けた『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズの音楽から強い印象を受け、一時期ずっと聴いていました。 個人的には、浜渦正志さんが音楽を手掛けた『ファイナルファンタジーXIII-2』の音楽が好きなので、この作品の曲を例に挙げて曲の制作の依頼されたときはとてもうれしかったです。これらの曲のスタイルが、本作の中に少しでも反映されていると感じる方がいらっしゃれば、おふたり方を尊敬している私としては、達成感を感じます。 ――ボーカル曲の割合が多いように感じますが、理由をおしえてください。 ファン: ディレクター(キム・ヒョンテ)は、感情を伝えることを重視していました。それにおいてボーカルが重要な役割を担っています。このゲームの持ち味である美しく、かつ荒廃とした雰囲気の表現、生き生きとした都市の空気感を表現するにも、ボーカルはとても効果的な手段でした。 ――ユーザーのあいだでも話題になった、『Raven』(Raven戦の曲タイトル)の歌詞は造語とうかがいました。曲調もほかとは違い、クライマックスのバトルということもあってインパクトがありました。制作の経緯や歌詞の意味などを教えてください。 高城: レイヴンの怒りと「あのときこうだったら……」という過去への後悔を表現しています。 余談ですが、Raven戦のイメージをより勢いのあるものにするために、この楽曲だけは特別に歌の収録の最中に作詞を同時に行いました。 ファン: 音楽の方向性については、寂寞とした空間にふたりが残され、壮絶に対峙する状況をミニマルに表演したいという意見をディレクター(キム・ヒョンテ)からいただきました。 いくつかサンプルを試してみましたが、このゲームならではの空気感を届けることは難しいと感じ。それで、レイヴンの狂気を表現するように方向転換しました。当該曲の作曲家であるOliver Goodさんも、変更した方向性に共感してくださり、おもしろい曲に仕上げてくれました。 「ここまで来たから……」というか、こんなスタイルの曲も、充分おもしろいと受け入れられるのではないかと考えました。「このゲームならこんな曲もありだろう」という遊び感覚もお届けしたかったんです。 ――『Raven』以外に造語の歌詞が付けられている曲はありますか? また、歌詞を考える際に意識したことを教えてください。: ファン: 本作では、造語で歌われている曲がいちばん多いです。聴き手に意味を想像していただきたいという意図もあります。英語がベースになってはいるものの、ワードが破片のようにバラバラになっていて、意味の把握が難しい歌詞になっている曲もあります。侵食されている世界を言語的に表現したいという狙いがありました。意味のある歌詞で歌われている曲の場合は、生命力やキャラクターの志を伝えるのが狙いです。 高城: さまざまな国の音楽チャートを見ることが好きで、その影響がとても大きいです。今作の舞台やキャラクターのイメージから、ヨーロッパなどの言語と日本や韓国、中国等アジアの言語らしさを感じられるように、いろいろな国の言語を参考にしました。話者ではないため、発音に無理がないことを重点的に意識しています。物語を盛り上げつつ、プレイの邪魔をしない音であることを大事にして制作にあたりました。 イ: エンヤの歌 『Beyond Fate』では、キャラクターの解釈と音楽的意図を伝えるにあたり、美しい発音にこだわりました。制作当時は、現実世界にありそうな曲ではなく、異国的なもの、異世界の何かを表現したいと。特定の国の言葉を採用してもよかったかもしれませんが、音そのものの美しさを表現したいと思いました。 とくに喉や口を塞ぐ音が混ざらない、口を丸く開いた状態で紡ぎ出されるソフトな音が好きです。そのような音をたくさん使っています。『Lily』(リリーのテーマ)も造語をベースにメロディーと歌詞を作りましたが、seibinが軽快な曲を作ってくれましたし、リリーがかわいいキャラクターなので、かわいく聴こえそうな発音にすることに注力した記憶があります。 ――制作に苦労した、時間のかかった曲と理由を教えてください。: ファン: プロローグで流れる 『Star Descent』です。もともとボスBGMにするつもりで制作しており、とてつもなく強い力に塞がれた感覚を伝えるのが狙いでした。しかし、何回修正を重ねてもその感覚が中々掴めず。塞がる感覚より、突破していく感情がより強く出ていたんです。 けっきょくボスBGMとしては似合わないと思い、使う場所を変更しました。この突破して感情が、プロローグのシチュエーションにぴったりだと思い、その曲から伝わるイメージをよりはっきりさせることができました。 イ: 私は、軌道エレベーターのボス・デモクローラー戦で流れる 『Democrawler』ですね。ドラフトの初稿はすぐできたのですが、ボスBGMとしてふさわしくないと思っていました。ゲームが完成に近づいたころ、ボスのデザインとバトルシーンが素敵すぎて、どうすればプレイヤーがバトルにもっと没入できるかと悩み、アレンジを図りました。 そんな中、弊社のタイトル『勝利の女神:NIKKE』の曲に参加されているPernelleさんの声を聴き、「これだ!」と思い、Pernelleさんにお願いをし、参加していただくことになりました。幸いなことに、Pernelleさんは私の曲を聴いてすぐに曲の感情を正確に理解してくださり。Pernelleさんのおかげで、完成度の高い曲に仕上がり、協業のシナジーを改めて感じるきっかけとなりました。 チョ: たくさんありますが、ひとつ選ぶとしたら、 『Slient Street』ですね。この曲が流れるエリア(エイドス7)は、『Stellar Blade』の音楽に対する第一印象が決まる場所ということもあり、当時は心に大きな負担を抱えていました。 気合を入れて取り掛かりましたが、最初はあまりいい反応を得られませんでした。ほかのBGMを作りつつ悩んだ末、3ヵ月が過ぎてようやく新しい曲でもう一度トライすることになり。そのときにはひとりで悩まずに、seibinに協力してもらい、現在の曲が誕生したのです。音楽制作は必ずしもひとりでやるものではない、という学びが得られました。 ――開発秘話やアピールしておきたいことなどがあれば教えてください。: ファン: 荒野マップのBGM 『Quiel』と『Shael』は、同じ曲のように感じられるかもしれませんが、後半のヴァイオリンの奏者が異なります。サウンドトラックの奏者の情報を確認しない限り、中々気付けないかもしれませんが、これを知った上で聴いていただくと、また違った楽しみかたができると思います。 あとは振動についてです。『Stellar Blade』に関わる前は、おもにPCゲームの曲を作っていたので、振動を意識しながら制作をしたことはありません。そのため、何となく苦手意識がありましたが、いざやってみると、プレイステーション 5のDualSenseのハプティックフィードバックは、サウンドリソースを作るときと制作方式がそんなに変わらないと感じました。それでハプティックの作業に興味が沸き、通常の効果音制作以上に、ハプティックにもこだわりました。その部分についても、皆さんに楽しんでいただけたらうれしいです。 イ: 本作は、ボーカル曲が多いですが、インスト曲もかなりの数があります。ボーカル曲はゲームでの体験をドラマチックに増幅させたり、音楽的意図をより明確に伝えることができるというメリットがあります。一方で、インスト曲はプレイヤーをゲーム自体により集中させる力があると思います。インスト曲の魅力についても、より多くの方に知っていただきたいなと願っております。 とくに愛着を持っている曲は、唯一バトルのない最終フィールドのBGMである『Nest』です。この曲は、ほかのエリアとは違って、その場所自体を奥深く表現することを目指しました。はっきりとしたメロディーやボーカルがなくても、その場所の空気とサウンドのテクスチャーが自然に融合することを想像しながら、作曲した記憶があります。完成した曲についても、とても満足しています。 チョ: 大砂漠のBGM 『Great Desert (Reboot)』は、制作の過程でさまざまなことがありました。最初はバラードスタイルのトラックを作り、ボーカルガイドの作成まで進んでいたのですが、このまま仕上げると使う場所がなさそうだなと思い。それでボーカルだけを残して、トラックを丸ごと変えたんです。 予定していたバラードスタイルから脱却し、新しい魅力を持った曲に仕上がったと感じ、とても満足しています。そしてこの曲を演奏してくださった実演家の皆さんも、とても素晴らしいパフォーマンスでした。この場を借りて、改めてお礼を申し上げます。 ――サントラを心待ちにしていたファンにメッセージをお願いします。 ファン: この業界に入るまで、さまざまな日本のゲーム音楽を聴いてきました。ゲーム音楽から受けたいい感情を、このゲームにも落とし込み、皆さんにお届けしたいと思いました。本作は世界観を表現するために、積極的に音楽を活用するゲームです。サウンドトラックを通して、 『Stellar Blade』の世界を改めて感じていただけたらと思っております。 イ: ゲームの中に多彩な要素が盛り込まれているだけに、多様な個性や世界観を含んだ曲がひとつになって、 『Stellar Blade』という作品をより輝かせてくれていると思います。本作の曲がこれからも末永く愛され、皆さんに素敵な思い出をお贈りできるものになればなと思っております。これからも、皆さんのご期待にお応えできるいい音楽をお届けできるよう、引き続きがんばっていきたいと思います。本当にありがとうございました! チョ: サントラのリリース準備をしながら、開発期間中に音楽を作っていた時期を振り返りまして。「こうすればよかった」と反省する気持ちや満足感が交差する感覚でした。皆さんがBGMを聴くときに、ゲームプレイの思い出や、その場所に関する記憶がひとつひとつ蘇ってきたら、作曲者としてはこの上ない報いになると思います。BGMについて、たくさんの方にご好評いただいており、心から感謝しております。これからも引き続きいい曲がたくさん作れるよう、精進してまいりたいと思います!