「田舎モダン」の魅力伝える人口1万7000人の開成町のブランディング政策
2015年の町政60周年をきっかけに町のブランディングに取り組んできた開成町が、2014年度~2015年度の2年間のシティプロモーション事業の集大成として制作したプロモーションブック「かいせいびより」(B5判フルカラー100ページ)。86点の厳選した写真の半数にコピーライターがキャッチコピーを付け、場所やイベントの説明は一切載せない、行政の刊行物としては異例の写真集だ。実現の背景には、情報の受け手側に立って着々といらないものを削ぎ落としてきた、町とデザインの専門家の共同作業があった。
県内最小面積・人口増加率トップの町
小田原市・南足柄市・山北町・松田町・大井町に囲まれた神奈川県内最小面積の自治体である開成町は、人口約1万7,000人と小規模で宅地開発の影響を受けやすいとはいえ、昨年の人口増加率は県内トップ。2010年には新しい小学校も開校し、子育て世代も転入している。町としては成功しているように見えるが、町企画政策課の大石卓哉さんは「例えば葉山町には御用邸があるし、県内で最も人口が少ない清川村にも宮ヶ瀬湖がある。それと比べて開成町にはまだまだイメージも知名度もない。町民の方には愛着を持ってもらうため、町外の方には関心を持ってもらうための新たなスタートの年にしたいと、ブランディングに取り組むことになった」と話す。 事業の核となるデザインは、地元で上映会を行った映画「じんじん」の監督で秦野市在住の山田大樹さんから紹介を受け、映画の広報デザインを担当していた株式会社doppo(東京都)のイシザキミチヒロさんらに依頼した。日頃の業務に追われる職員が外部の専門的な人材に関わることで、役場内の風通しを良くし、意識の改革や学びにつながるのではと、府川裕一町長自らが旗を振った。
「町に関わるものは積極的に」異例の契約
ここで大きかったのが、あらかじめ仕様書を作って決められたものだけ発注するのではなく、町に関わるものは積極的に支援してほしいという、大枠の契約ができたことだ。結果的にこれまでロゴやコピーだけでなく、印刷物から幼稚園バスまで200点以上にのぼるデザインを少しずつ発注し、課を超えて横断的にブランディングを統一してきた。大石さんは「封筒一つをとっても、形や開け方など少しずつ違うものが30種類ぐらいあった。それを一度に無理やりリニューアルして在庫を無駄にするのではなく、あらかじめデザインデータを制作しておいて、次に印刷を発注するタイミングで新しいものにするなど、行政ならではの工夫が必要だった」と話す。 これまでのやり方と変われば、職員にはもちろん手間がかかり、反発も生まれる。しかし、100人に満たない開成町役場では、相談があれば課を超えて担当に直接意見をもらい、素早く物事が判断できる土壌がある。成果物が増えると、それを見て自分たちの課でもやってみようと、積極的に参加してくれる部署も出てきたという。 町の職員が熱を持って動くことで、デザイナーもそれに応じようとプロ意識が働き、両者の間に良い関係ができた。カメラマンやディレクターは10回以上開成町に泊まり、自転車で一日町を回って写真を撮りためた。プロモーションブックやフェイスブックページには、あじさいや桜のある風景、お祭りに集う町の人、住宅や学校、商店の何気ない風景など、指示されることなくプロが自身の目線で切り取った町の一瞬が、短いコピーとともに掲載されている。