精神科医が「高校生の患者」にする質問の中身
■「なんとなくの平均値」とのズレをみる さて、SNSについての問診が、思春期診療においてどういう効果があるのか考えてみると、一つには、「なんとなくのタイプ」が分かる。ということが挙げられる。この「なんとなくのタイプ」というのは、「なんとなくの平均値」からの偏倚(へんい)によって推し量られる。 例えば私の考える内科外来を身体化した症状で受診する中高生のSNS使用における「なんとなくの平均値」は、InstagramとTwitterは匿名で登録はしているが見る専門、Facebookはやっていない、TikTokもやっていない、YouTubeは結構みている、みたいな感じである。
なんの根拠があるのだ! と声を荒らげる人がいるかもしれないが、なんの根拠もない。驚くほどない。会ってきた思春期患者の集積の上に微修正を積み重ねられながら浮かんできた「なんとなくの平均値」である。 だから、「ディズニーで友達と踊った動画をTikTokにあげている」という子がいたら「ふだん僕の診療にこないタイプの子だな」と、その平均値からのズレをキャッチするし、「Twitterで裏垢をつくってパパ活をしている」という子がいたら「普通は内緒にするようなことをあけすけに言い過ぎでは」と思うし、「SNSはまったくやっていません」と言ったら「猜疑心が強くて調べられると思っているのか?」とか思うし、「本当にそうであれば何か理由があるのかもしれない」などと考える。
これは私見であり場合によっては偏見も含むようなものなので公共性は持たないが、こうした仮説を立ててみることで本人の生活を想像したり、性格や対人関係のあり方を類推することはでき、本人を見立てる大きな糸口になりうる。SNSは物差しになる。20年前だったらひょっとして、どんな番組をみているか、ということを聞いていたかもしれない。 SNSのことから派生して、例えばどんなYouTubeをみるのか? といった質問が、ときに患者と手を組む際に役立つことになる。思春期診療をする際に、我々医師が果たすべきは結局親でも教師でもないnew object(片山、1969:小此木、1976:乾、1980)として機能することであり、もちろんこれは、意図的にそう振る舞うこととは区別されるわけだが、例えば本人は大好きだけど大人はよく知らないマイナーなYouTuberやアニメの声優、K-POPアイドルなどを医師がよく知っていれば、それだけでちょっとこの人は違うかもしれない、分かってくれる人かもしれないという印象を抱かせるかもしれない。