NHK大河「光る君へ」実資の「民の顔が見えているのか?」に道長は…満月の夜、「望月の歌」はどう描かれる? 第44回みどころ
女優の吉高由里子が主演するNHK大河ドラマ「光る君へ」の第44回「望月の夜」が17日に放送される。 大石静氏が脚本を手がけるオリジナル作品。大河ドラマではきわめて珍しい平安時代の貴族社会を舞台に、1000年の時を超えるベストセラー「源氏物語」の作者・紫式部/まひろの生涯に迫る。 10日に放送された第43回「輝きののちに」では、宇治から戻った道長(柄本佑)と藤式部・まひろ(吉高)は各人の持ち場に帰還。アバン(導入)の描写によると、源氏物語は第51帖「浮舟」まで進んでいる。病で目や耳が弱ってきた三条天皇(木村達成)に道長は譲位を迫り、対立は深まるばかり。まひろは越後から戻った父・為時(岸谷五朗)と再会し、武功を立てるため太宰府へと向かう双寿丸(伊藤健太郎)の片思いに破れた娘・賢子を見守る―という展開が描かれた。 あらすじは前段の通りだが、個人的な評価で言うと第43回は実資(秋山竜次)の大活躍回。ここまで相手が誰であっても怯(ひる)むことなく自分の筋を通してきた「光る君へ」随一のフラットな男。強引に譲位を迫る道長のもとを訪れ「帝のお心は譲位に向かってはおられませぬ」「このまま左大臣殿が己を通せば皆の心は離れます」と正論を説きまくる。 ここまで道長は、若き日にまひろと約束した「民のための政」を胸に進んできたが、その甘さを実資は見逃さない。「民が幸せに暮らせる都を作る」と理想論を語る道長に実資は「そもそも左大臣殿に民の顔なぞ見えておられるのか? 幸せなどという曖昧なものを追い求めることが我々の仕事ではございませぬ」と諭す。道長は「志を持つことで私は私を支えてきた」と食い下がるが「志を追いかける者が力を持つと、志そのものが変わっていく。それが世の習いにございます」と冷静に伝える。「ん?」と真意が分かっていない道長の描写が切ない。 この場面、すごく真理を突いていると思ったのだけれど、道長にとっての「民のため」はすべて「まひろ(との約束)のため」に帰結している。そこに“道具”にされようとしている娘や孫たちの意思は考えないし、民は何をすれば幸せになるのかという具体的なプランはない。そこの実資のえぐり方、言語化能力の高さは突筆に値するし、一方で「小右記」に愚痴を書きまくる俗っぽさもかわいい。実資や行成(渡辺大知)が近くにいてくれたことが道長にとっての最大の幸運なのだが、気づかずに宮中でも浮いた存在になっていく。 そしてもう一人、倫子(黒木華)のホラー回でもあった。嫡男・頼通(渡邊圭祐)の妻の話を発端に「私は殿に愛されてはいない…。私ではない、明子様でもない、殿が心からめでておられる女がどこぞにいるのだと疑って苦しいこともありましたけれど、今はそのようなことはどうでもいいと思っております」と本音を吐露する。 倫子は土御門から帝を出す可能性が高まったことに感謝を述べつつ「私とて、いろいろ考えておりますのよ。ですからたまには私の方もご覧下さいませ。フフフフフ…」と笑いが止まらない。怖すぎないか? ここまで倫子の大人の対応に甘えて堂々と会っている2人だが、しっかり露見する日は近づいているのではないか。 そしてこの回は行成の申し出に加え、目を病んだ隆家(竜星涼)、武者・双寿丸と「太宰府」というキーワードが出てきた。数年後に起こる刀伊の入寇までのカウントダウンも始まっている。 放送は残り5回となり、クライマックスに向かっていく第44回。道長は引き続き三条天皇に譲位を迫るも、代わりに三条の娘を頼通の妻にするよう提案される。北の方の隆姫を思う頼通は提案を固辞。道長は悩んだすえに皇太后の彰子(見上愛)に相談したところ、ある意見を返される。一方、まひろは父・為時から予期せぬ相談を受ける。源氏物語の執筆も続けていると、決意を固めた道長が訪ねてきて…という展開になっていく。 この回は結構、年月の流れもスピーディーで、歴史の教科書に書いてあるような事象も起こるので、予習してご覧になってみてもいいかもしれない。前回の予告にも流れていたし、サブタイトルにもあるが、望月(満月)が象徴的に描かれる回。有名すぎる「望月の歌」の詠唱も聞こえてきた。歴史の教科書では栄華の象徴とされる望月の歌だが、今作ではどういう解釈のもと描かれるのか。くしくも、1000年以上の時を超えた令和の今宵は満月。夜空を見上げて、平安の世に思いをはせてみてもいいかもしれない。(NHK担当・宮路美穂)
報知新聞社