「障害者と言われてる人たちと一緒につくってます」→即完売する人気クッキーに 「欲しくなる!」「支援のためでなく素敵なものだから」
自分たちが作っているものを知ってもらいたい
中村さんは、精神障害や発達障害、知的障害の方が一般就労するまでの訓練の場所となる「就労継続支援B型」の事業所としてハンドメイドの刺繍アクセサリーや刺繍小物などを製作する「ツナグ工房」と、「就労継続支援A型」の事業所としてカフェ「ツナグ茶房」を運営。こちらのクッキー缶は「ツナグ茶房」ブランド内の菓子工房「bakeLab byツナグ茶房」で作っています。 ――クッキー缶を作ることになったきっかけは? 「ツナグ茶房」で提供しているパフェなどのスイーツに必ずクッキーを添えているのですが、一部のお客様から「お土産に買いたい」という声をいただくことが増え、テイクアウト用に小袋に入れて販売をしてみたのがはじまりです。 徐々に売れる数量も増えましたが、その分手間も増えてしまい、まとめて一つの箱にいれた方がいいのではないかと思いました。実際にやってみると、この方が自分たちの世界観をより表現しやすいと感じてクッキー缶をつくるようになりました。 ――クマの「さぼうくん」、愛らしいですよね。 「ツナグ茶房」をつくる際に、キャラクターが欲しいな…となり、知り合いのイラストレーターさんにお願いしました。その際にスタッフたちから「黒クマがいい」と希望があって今のかたちに。 お客様から「社長(わたし)がモデルですか?」とよく聞かれ、最初は「ちがいます!」と言ってましたが、すごく人気になってからはその方がおいしいと思い、濁してます(笑)。クマのカフェをやっているのと、自分がクマっぽいのでくま社長と名乗るようにしました。 ――今後は「さぼうくん」の認知度もアップしていきそうですね。今回の投稿に大きな反響がありましたが、利用者の方々は? 正直なところ特に変わってないですかね。淡々と自分たちが作りたいものを作っているという感じです。たくさん売れると自分たちの給料が増えるかもしれないという気持ちは、もしかしたらあるのかもしれません。それよりも、クッキーを作ったりすることが好きなのかなと。 ――「作るのが好き」という気持ちが伝わってくるような素敵なクッキーだと思います。 今回バズッたポストの冒頭に僕はこう書きました。「障害者と言われている人たちと…」と。これは僕から社会への苦言です。「ウチ(ツナグ)に辿り着いた人たちは、今こうやっておいしくて可愛いもの作れるんやで!」という強い気持ちを込めました。実際にクッキー缶も利用者がほぼ作ってますし、「ツナグ茶房」の店舗も利用者がほぼ切り盛りしています。正直めちゃくちゃ助かっています。それでも社会から「障害者」と言われ「はじかれた人たち」が作ったお店であり、クッキー缶なんです。 でも、美味しかったり可愛かったら誰にもそんな事関係ないですよね。だから「ほしいと思ったら買ってよ!知らない人がいたら伝えてよ!」というメッセージでした。 ――私も中村さんのメッセージとクッキーの美しさに思わず目が止まりました。 就労支援事務所として営業している僕たちは、モノをつくって終わりではなく、障害のある方たちの次のステップへ向けた支援が第一の仕事となります。そして当事者(=利用者)の方たちは「訓練」という名の労働をおこないます。すべては人生の次のステップのためです。ただそのタイミングは人それぞれで、長い人では数年に及ぶことがあります。しかし、その間は無報酬では働く意味などが薄れてきます。働いた分は還元されることが大事。そのためには自分たちが作っているものを知っていただくことが必要だと考え、投稿しました。 ――自分たちの仕事が評価され対価をいただけることは、働くモチベーションとしても大事ですよね。クッキーはどのように作業分担を? 全体的なデザインはスタッフが考えております。その中で「こんな食感のモノが欲しい」などをスタッフ、利用者と考えています。アイシングに関しては利用者がおこなっております。スタッフよりもレベルが高いんです。製造工程に関しても利用者が基本的に行い、スタッフが間に確認をしております。 実はスタッフ、利用者含め全員飲食未経験からのスタートでした。元々手先が器用であったり向いていたのかなと思います。余談ですが、私は焼き菓子のスクールにも通いましたが、それでも全然できません(笑)。 ――ひとつひとつとても細やかな仕事が施されたクッキーだなと感じました。味や製造方法、原料などにこだわりは? 見た目にはすごくこだわっています。だからと言っておいしくないというのは本末転倒ですので、安くて使いやすいものより原価がかかっても良いものを選んでおります。焼き菓子は焼き加減で食感など変わりますので何度も試作を繰り返し、自分たちがおいしいと思えるものを提供するように心がけています。 ――「買いたい」「応援します」などたくさんのコメントが届いていましたね。 就労継続支援事業所で素敵な所は全国にたくさんあります。素敵な商品がたくさんあります。それをもっと知ってもらいたいです。僕たちがその初めのきっかけになれたらこんな幸せなことはないと思います。 そして、今いる利用者の人たちが僕は大好きです。ずっと一緒に働きたい気持ちもあります。本人が了承してくれたらですが、利用者という立場ではなく直接雇用をしていけたらと思っています。ただ現状本人たちにそこまでの体力もありませんし、「それまで就職を待って」とは言えません。 彼らの大事な人生ですから。でもそうしたい気持ちは強くありますので、彼らの活躍の場を拡げていくためにも、もっともっと欲しいと言ってもらえる魅力的な商品づくりをしていきたいです。販売数が上がれば、障害を持つ方たちの所得向上にもつながります。 「障害があるからできないこと」にフォーカスされるより、「障害があるからこそできることがあるのではないか」と逆に興味を持ってもらえるような社会になってほしいなと思います。 ◇ ◇ 厚生労働省のHPによると、「就労継続支援」とは、障害者総合支援法における就労系障害福祉サービスで、一般企業に雇用されることが困難な方が通える場所としてA型事業所とB型事業所があります。 A型事業所は「雇用契約に基づく就労が可能である者に対して、雇用契約の締結等による就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供を行う」、B型事業所は「雇用契約に基づく就労が困難である者に対して、就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供を行う」としており、雇用契約の有無で区別され、労働時間や報酬、業務内容などが大きく異なってきます。 中村さんが運営するA型事業所である「ツナグ茶房」では、2024年3月現在、A型利用者として5名の方々とB型利用者として22名の方々がトレーニングや実践経験を積みながら活躍されているそう。 「障害のある方が安心して通い続けられる居場所に。そして就労支援が終わったその先で、彼らが人気店で働いた経験や仕事に対するやりがいを活かすために何ができるかを常に考え続けていきます。これからも障害のある方がいきいきと社会参画し続けられる可能性を見出していきたいです」と中村さん。 スタッフと利用者の方とお客さんとを繋ぐ存在であり、一人でも多くの障害を持つ方々の未来に繋がる活動をと常に考えていらっしゃることが伝わってきました。 この春、本格始動させたYouTubeでは「よりリアルな現場を見てもらい、知ってもらいたい」と運営中のカフェや工房、bakeLabo、イベント出店の裏側などを積極的に発信中。次回のクッキー缶の販売予定は4月25日。最新情報は中村さんのXをチェックして。 (まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・太田 真弓)
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