菅田将暉の演技力なくして、あのエンディングは成立しなかった!映画『Cloudクラウド』黒沢清監督、目の前で本人を絶賛(Wインタビュー)
Esquire:それはつまり、切羽詰まったというかギリギリの瀬戸際にいる人間こそが最も強い集団的能力、結束力のようなものを生み出すという意味ですか?
黒沢:そうですね。結束と言っていいかどうかはわからないですが。 多分そういう人たちが、一人だったらよく考えて思いとどまったかもしれない、一人では実行しなかった、または発想さえしなかったかもしれない悪意が、集まることによって増幅されるということなのかなと。 誰かをいたぶってやろうという気持ちの裏には、何か社会に恨みがあるのでしょう。何か社会に仕返ししてやろうという。それが吉井に向かい、集団であることで、ひとりだったら警察に捕まるから絶対やらないようなことをやってしまえと、その行動が拡大していくという感じ。それは非常に現代的なことなのだろうと思います。
Esquire:一つ間違えると、犯罪者集団をエンターテインメントにしてしまう。その危うさみたいなものを引き戻すため、演じるうえで気をつけられたことはありますか?
菅田:それはもう、集中力しかないです。ともすれば本当にコントになるし、しようと思えばできました。試写会で(自分の演技を)「変なことするなよ」と祈りながら見ていましたが、特に吉井は役割的に彼の感覚が観る側とも連動する役。特にスリラーとかサスペンス、バイオレンスは(観客の)リアクションが大事。この作品は、怖さとか痛点が一見バグっている登場人物たちの間で、吉井の感覚だけが“ふつう”なので、彼のリアクションが観客が物語を視るときの基準になってしまう。だから、その辺は丁寧にやらなければとは思っていました。 黒沢:それは本当に助かりました。僕も実際、ああいう状況に追い込まれた人がどうなるかはよく分からない。最終的には拳銃を自ら握る人物がたどる過程を見て、「きっと、こうなんだろうな」と納得できるのは、本当に菅田さんが丁寧にやっていただいたおかげです。 非常に短期間で、180度真逆に振れていく人物の心理の変化を丁寧に演じてくれたことが、最後の死闘が茶番にならなかった理由です。(作品を)「重厚」と言っていただけることは、ありがたいです。きめ細かな菅田さんの演技と、銃撃戦の様子をとことんリアルに描くことに全能力を注いでくれた、スタッフたちの力によるものでしょう。日本映画で、このようなハイレベルなアクションシーンを撮ることができるとわかっただけでも、この映画を撮った甲斐があったと思います。