菅田将暉の演技力なくして、あのエンディングは成立しなかった!映画『Cloudクラウド』黒沢清監督、目の前で本人を絶賛(Wインタビュー)
作品と俳優陣の演技が見事に調和した映画『Cloud クラウド』。その主柱であるお二人のインタビューをお届けします。『Cloud クラウド』は、人間のリアリズムとディストピアを、ガンアクションを味付けにしながら銃弾に乗せ、観客に強く訴えかけてきます。 ▶【写真&特報映像】監督・黒沢清×主演・菅田将暉の初タッグ。映画の柱である2名の貴重なツーショット
“労働被害者”が、社会で生き残るため歩むグレーゾーン
工場労働を日々の糧にしながら、老後のため、家族をもつため、資金作りのため、ネット上で転売業を営む主人公・吉井良介は、「副業礼賛」を言い訳に、十分な給与を払わない企業が生んだ“労働被害者”の象徴だ。 そんな労働も続けながら、現状から抜け出すのに十分な額を転売業でしっかり稼ぐためには、法律のグレーゾーンを、まるで地雷原を進むようなリスクを背負って実行するしかない。しかし小売業の資格を持たないのに括弧付きの小売りで必死に稼ぐ吉井の姿と、ブランドの上がりの一部をいただきながら稼ぐステマと何が違うのか? そう凄まれれば、「確かにそうですね」としか言えなくなる。デスパレートな状態になれば、人も大手企業もグレーゾーンを進むしかない。 映画の中で、上昇志向の主人公が一発逆転を目指して選ぶ仕事であれば、少し前なら株式トレーダーでも成立しそうなものだが、「グレー」が大手を振って跋扈する今、「転売」はまさに、現代日本映画らしい選択だ。 「転売屋そのものにテーマを込めたわけではないのですけれども、社会の中で脱落するかしないか、すれすれのところにいる人間がそれでも何とか生き抜いていこうとしたときに、もっと“動物的”なやり方として、ただ物を誰かから買い取って売るという資本主義の典型的なやり方で身一つ、なんとか生き延びていく。現代に生きる追い詰められた人間の分かりやすいあり方かと思い、この職業にしました」(黒沢監督)
Esquire:転売屋という職業はご自分では体験されてないと思うのですが、どういったところから吉井という人物像を作り上げる要素のようなものを取り入れられたのでしょうか?
菅田:クランクインする前に黒沢さんから、アラン・ドロン主演の『太陽がいっぱい』(1960年 ルネ・クレマン監督)について話をしていただきました。真面目に悪事をやっていく感じは、あの映画が参考になってはいます。 同時に吉井は、いたって無意識的に人を傷つけていく話でもある。善悪で分けていい行動ではなく、生きるためなのです。それは僕らもそうだし、どんな職業の人も、仕事にはそういう側面があると思います。 先ほど話していた吉井の表情は、「転売屋のモノが売れた瞬間である」といった背景があるということを知っていてこそ、安堵感として見えるものです。が、その背景を知らなければ、不気味にも見える――。内情的には至って本気で真面目に仕事しているその姿は、不気味でもあるわけです。