山口智充「僕は今、やりたいことやってます」―― なぜ縁もゆかりもない名古屋で活躍しているのか
『ぐっさん家』は全国で放送されている番組ではないため、視聴可能な地域以外では「最近ぐっさんをテレビで見なくなった」と思う人も多いかもしれない。そう思われることについて尋ねたところ、山口は笑顔で答えた。 「それに対しての抵抗はないです。探してもらえれば、僕の活動はちゃんとわかりますから。音楽の世界でも、ヒットチャートに入っていない人が活動していないかというとそんなことはないどころか、日本武道館でライブをやっていたりするじゃないですか。僕の場合も、今はローカル番組でやりたいことをやっているというだけです」
将来の夢は、一日中ずっと僕が出ている番組をやること
山口といえば、クセの強いミュージシャンの歌い方や動物の鳴き声など数々のマニアックなものまねを武器としているが、順調な仕事の裏には、自分のネタが一方的にどんどん消費されてしまうという焦りもあった。 「台本に『1分間、ぐっさんモノマネ』って書いてあって。1000個モノマネがあっても、例えば1日3つずつ披露していれば1年で尽きますよね。そして僕がいた1分間にはまた別の人が入ってくる。そうやって、気づいたら飽きられてしまう」 ずっとやり続けるためには、自然な自分を見せるしかない。『ぐっさん家』はそんな山口が見つけた安息の地だった。昨年、50歳になったことで改めて心境の変化もあった。
「今まで積み重ねてきたことがいろいろある中で、セルフプロデュースしたものをいかに純度の高い状態で出せるか、って考えているんです。もったいつけるわけじゃないんですけど、そういう環境がないんだったら無理に出したくはない。自分のいちばんいいところを世の中の人に見てほしいんです。綱渡りしながらがんばってテレビに出続ける必要はないんです」 時代の流れもそれを後押ししている。20年以上前に、山口は将来の夢を聞かれて「一日中ずっと僕が出ている番組をやりたい」と答えたことがあった。いまやYouTubeなどの動画サービスによって、誰でもそのようなことが手軽にできる時代になった。
当時から彼の話を聞いていたスタッフには「やっとぐっさんの言っていた時代が来ましたね」と言われた。いまや芸能人がYouTuberとして活動するのも珍しいことではなくなった。 「作り手も出演者も、自分たちが思い切りできる場所を探して、シフトチェンジしていっているんですよね。選択肢が多くなった分、やりたいことができる時代になってきたんです」 『ぐっさん家』はYouTuberの先駆けのような番組だった、と彼は言う。みんなの人気者の「ぐっさん」は少年のように目を輝かせて、今も新しい遊び場を探しているのだ。