山口智充「僕は今、やりたいことやってます」―― なぜ縁もゆかりもない名古屋で活躍しているのか
余分な音楽もナレーションも入れずに放送したところ、思いのほか高視聴率を獲得し、業界内からも大きな反響があった。山口と番組スタッフは確かな手応えを感じて、この路線を貫くことになった。 「名古屋で大人気のラーメン屋さんに行って、ただただ30分行列に並んで終わったこともありました。30分番組だったので、番組の最後で店に入って、カウンターに座ったところでエンドロールが流れていました」 タレントがラーメン店の行列に並んで、ラーメンを食べ出したところでロケが終わる。普通の番組ではありえないことだが、これが『ぐっさん家』の新しさだった。
今でも山口は、この番組のロケでどこに行くのかを事前に知らされていない。台本すら用意されていない。ゲストも秘密にされている。ときには明石家さんまや大物ミュージシャンなど豪華なゲストがふらっと訪ねてくることもある。彼が会いたいと思っている人を、スタッフが連れてきているのだ。
「テレビだからいいだろう」は許さない
この番組のロケで一般人と接するとき、山口は「迷惑をかけない」ということに徹底的にこだわり、スタッフにもそれを伝えている。 「例えばお店に行ったときに、箸の置き方ひとつにも気をつけているんです。撮影スタッフが勝手に位置を変えたりしていないかな、って。道端に停めてある自転車を勝手に動かすのも良くないと思うんです。僕らは撮影のためにお邪魔している身だから、きちんと筋を通さないといけないと思うんです」
一般人に人一倍気を使うのは、山口があまり芸能人らしくない芸能人だからかもしれない。25歳までサラリーマンとして働き、そこから芸人の道に進んだ彼は、ほかのタレントよりも視聴者に近い目線で芸能界を眺めている。 「そこまでどっぷり自分が芸能人だと思っていないんですよね。プライベートではスタッフとも遊ぶし、一般人の友達も多いですから」 等身大の人間として生きているからこそ、普通に生活している人の当たり前の日常を大事にする。山口は「テレビだからいいだろう」という業界人の傲慢さを決して許さないし、「芸能人だからこうしないといけない」といった感覚に縛られることもない。 山口本人が『ぐっさん家』という番組を心から楽しんでいるのが伝わってくる。