内定蹴った学生に「ファストパス」支給 再就職時に優遇...企業にプライドないのか?/マイナビ・長谷川洋介さん
超売り手市場、大学生全体の数が減少し退職者は増える一方
J‐CASTニュースBiz編集部は、リポートをまとめたマイナビのキャリアリサーチラボ研究員の長谷川洋介さんに話を聞いた。 ――調査を行なった時期は内定式がある10月ですが、それでも採用充足率が70%という過去最低の水準になったのは、ズバリ何が理由でしょうか。 長谷川洋介さん 売り手市場に伴う人材獲得競争の激化と、学生数そのものが年々減っていることが大きいです。大学生の人材としての希少性は年々増している状況ですが、獲得できる学生全体の母集団が縮小しているわけです。 そのうえ、転職する若手が増えています。ですから、新卒採用を行う目的が、前年に採用できなかった人員を今年の新卒採用で取り返す動きだけでなく、退職者の分を今年の新卒採用で補おうとする動きも増えているのです。 企業が人手不足に苦しむ売り手市場・採用難といえる状況が、採用充足率低下の要因の1つであると言えるでしょう。 ――企業の人事担当者は大変ですね。充足してない人数をこれからどんな方法で獲得しようとしているのでしょうか。 長谷川さん 「今後(11月以降)も採用活動を継続する」と回答する企業は毎年増える傾向にあります。新卒だけでなく、中途入社の即戦力で補充したり、次年度の新卒募集を増やしたりする対応を検討しているようです。
退職者のOB組織「アルムナイ」から派生した採用方法
――自社の内定を蹴った学生に与える「就職ファストパス」も切羽詰まった手段と思われますが、どういうものでしょうか。かつての東京ディズニーリゾートのような、いわゆるプラチナチケットのようなものですか。 長谷川さん 「就職ファストパス」は、新卒採用で内定や入社を辞退した学生に対し、その学生が将来中途採用で再度選考を受ける際に、選考の一部を免除するといった優遇処置を意味しています。「就職ファストパス」以外にも「選考ファストパス」「プラチナチケット」などと言われることもあり、企業によって名称はさまざまです。 近年では、中途採用における「アルムナイ(卒業生)採用」が広がっています。過去に在籍した社員を学校の「OB」(卒業生)のように扱い、自社の人的資源と捉えて継続的にネットワークを築き、人材を再雇用するタレントプールの考え方です。「就職ファストパス」もその考え方から派生したのではないでしょうか。 ――企業や個人にとっては、どんなメリットがあるのでしょうか。 長谷川さん 企業のメリットとしては、新卒採用で接点を持つことのできた優秀な学生とのつながりを維持することで、外部の労働市場に自社にマッチした人材をプールすることが可能となり、人材確保の手段が広がります。 学生のメリットとしては、就職活動では複数の内定を得ても最終的に入社できるのは1社だけです。将来、転職する際、志望度が高かった企業と今後も接点を持てることは、より多様なキャリアパスを描けることにつながります。 ――しかし、企業にはプライドはないのでしょうか。一度は自社の内定を蹴った学生に対して、そこまでチケットを与える必要がありますか。 長谷川さん 新卒の採用は、選考過程で多くの採用工数がかさみ、業務負担が増えるものです。その点、一度は内定までいった学生は、自社の人材になり得ると評価を下した人物です。 すでに自社に対して一定の志望度・理解度があるため、一から採用広報をする手間がないメリットも考えられます。 おっしゃる通り、内定を辞退されることは企業としては悔しい結果ではあります。しかし、そうした学生にファストパスを渡すことは、優秀な人材と継続的に接点をもつ以外にも、人材採用に対して柔軟で寛容な企業であるとアピールができます。自社のファンを増やす、あるいは中長期的な人材獲得という点では大いに意味があると思いますよ。