相模原女性遺体遺棄事件で“元交際相手”に「3回目の有罪判決」…“冤罪”を防ぐための「法の仕組み」は“正しく”機能したか?【弁護士解説】
差し戻し審で検察が「訴因変更」を行った理由
差し戻し後の一審(地裁)では、検察は起訴内容を「被害者に薬物を服用させ、薬物中毒または頸部の圧迫による窒息により死亡させた」と変更し、地裁もそれを認めて上記有罪判決を下した。 起訴内容を変更することを「訴因変更」という。訴因変更とはどのような制度か。なぜ、本件で訴因変更が必要だったのか。 岡本弁護士はまず、「訴因」の制度について、争点を特定・明示し、被告人側に防御活動を十分に尽くさせ、それによって冤罪を防ぐ機能をもつと説明する。 岡本弁護士:「『訴因』とは、検察官が、被告人の行為を特定の犯罪の構成要件にあてはめて法律的に構成し、主張するものです。 刑事裁判では、検察側と被告人側がこの訴因をめぐって攻撃防御を行います。訴因にあらわれた事実が証拠によって認定されれば有罪、認定されなければ無罪となります。 もし、訴因が不特定だったり不明確だったりすると、冤罪のおそれが大きくなります。なぜなら、被告人が何に対して防御活動を行えばいいのか、ハッキリしなくなるからです。 したがって、検察官は、訴因をできる限り特定し、明示しなければならないのです(刑事訴訟法256条3項参照)。 当初、旧一審・控訴審で検察が主張していた『被害者に薬物を服用させ意識を失わせ、頸部の圧迫により窒息させた』という訴因では、あくまでも、被害者の死因は『頸部の圧迫による窒息』です。『薬物を服用させたこと』は前提となる行為にすぎません。 本件では、被害者が、頸部圧迫ではなく薬物中毒により死亡した可能性があるというならば、その旨を訴因に明示しなければなりません。したがって、訴因を『被害者に薬物を服用させ、薬物中毒または頸部の圧迫による窒息により死亡させた』というものに変更する必要があったのです(【図表】参照)。 なお、訴因の設定方法については『薬物中毒または頸部圧迫』という『択一的訴因』の記載が認められています(刑事訴訟法256条5項参照)」