『枕草子』と清少納言のイメージが一変、号泣展開に…「春はあけぼの」に込められた悲しくも崇高な思い【光る君へ】
もう1人の「光る君」の物語、枕草子誕生の背景に涙
そうして執筆が開始された『枕草子』。これは前回のコラムでも書いたが、これまでほとんどの人が『枕草子』を「清少納言がリア充な日常+自分の感性と知性の高さを、自慢とユーモアを交えて書いたエッセイ」と解釈してきただろう。 しかし実際は、定子の後宮は嫌がらせが頻発して結構な地獄だったし、ステキな公達が集まるサロンも長くは続かなかった。その真実を嫌と言うほど見せつけたからこそ、『枕草子』は失意のどん底にある中宮を励ますための、渾身のラブレターだった・・・という、この解釈が最大限に生きることになった。 寝込むほど絶望している推しに、「世界はこんなにも美しいんだから死なないで!」という一心で文章を綴りつづけ、それを読んだ推しがついに元気を取り戻す・・・。特に「強火担」と言えるほどの推しがいるオタクにとっては、起き上がった定子の姿を見て涙する清少納言に、もらい泣きするほどの共感を覚えたのではないだろうか。実際SNSも「『春はあけぼの』にこれほど泣かされるとは」「美しきシスターフッドに涙」などの号泣状態となっていた。 史実のなかに、ほんの短いフィクションを挟み込むことで、視聴者の歴史認識をガラリと変化させることができるのが大河ドラマの醍醐味だけど、この『枕草子』爆誕のエピソードも、清少納言と『枕草子』のイメージを大きく揺るがしたのは間違いないだろう。 「かつて光輝いていたあの人」に捧げた、もう1人の「光る君」の物語は、間違いなく中盤のヤマ場と言える神回だった。そして、このシーンのためにむちゃくちゃ書道の特訓をしたというファーストサマーウイカには、特にお疲れ様の言葉を捧げたいと思う。 ◇ 『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。6月2日放送の第22回『越前の出会い』では、まひろと為時が宋(中国)人たちとふれあいながら越前生活を送っていく姿と、定子の懐妊を知った一条天皇の反応が描かれる。 文/吉永美和子