人手不足の下で「実質値上げ」進行中 無料サービス廃止の次に来るのは何?
日本経済は空前の人手不足に直面しているにもかかわらず、賃金・物価上昇率は鈍い状態が続き、それが話題になっています。目下、需給ギャップが解消し、失業率が3%近傍まで低下する中でもエネルギーを除いた物価は0%をわずかに上回る領域で推移し、一人当たり賃金はようやく0%台後半に到達した段階です。 とはいえ、失業率と賃金・物価の関係を整理すると、失業率が3%近傍でインフレ率が高まらないのは過去の傾向どおりの事象で意外感がないのも事実です。実際、失業率を横軸に、賃金・物価を縦軸にとったフィリップスカーブは、これまでも失業率3%を境界に2本の傾向線が存在する非線形の関係が観察されてきました。
人不足の元で実質値上げが進行中 物価上昇の兆し
ここからの含意は、目下の失業率低下傾向を前提とすれば、今後は日銀が期待するように、 (1) 賃金・物価が加速度的に上昇し、(2) 金融緩和からの「出口」が近づく可能性があるということです。 日銀は消費者物価統計でインフレが観察されない理由として「省力化投資の拡大やビジネス・プロセスの見直しにより、賃金コストの上昇を吸収しようとする動きがみられていること」を指摘していますが、一方で無料のサービスを削るなどの“実質値上げ”が進んでいることを指摘しています。黒田総裁は11月6日の講演で「これまで提供していたサービスのうち、人件費との兼ね合いで採算の合わないものを削減していくといった取り組み」がすでに観察されていることを指摘しました。 また「各種の合理化努力と並行して、吸収しきれなくなってきた賃金コストの上昇分を価格に転嫁していく動きが広がっています」として、すでに企業の価格設定スタンスが積極化しつつあることも示しています。実際、日銀短観などのアンケート調査では企業が価格転嫁を進めている様子が映し出されています。 これまで実質的に無料で提供していたサービスの見直しが一巡すれば、「次の段階」として企業は表面上の製品・サービス価格の値上げに踏み切ることが想定されます。この「次の段階」の入り口にあたる時期が、失業率3%以下の領域に符号するならば、今後は賃金・物価上昇率が加速度的に上昇する可能性があるでしょう。従って、失業率が3%を明確に下回るであろう2018年は賃金と物価が予想外に早いペースで加速することも考えられます。その場合、日銀が市場参加者の予想より早い段階で金融緩和の解除を模索する可能性があります。
(第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。