議論の相手はAI、ビデオ通話で合同授業…地方の子どもの学び充実へ、小規模校はICTの活用にかける
鹿児島県大隅地域の小規模校が情報通信技術(ICT)を活用し、子供が自分以外の多様な考え方に触れる機会を増やす取り組みを模索している。専門家は「小規模校の子供の学習機会の充実につながる」と話す。 【写真】生成AIを活用して議論を深める生徒=肝付町の岸良学園
「ゆうこさんの家計支出計画は、娯楽費が多すぎるように感じる」。小中一貫の義務教育学校、岸良学園(肝付町)で11月21日、1人で公民科の授業を受けていた中学3年、鈴木正海ルイスさんが画面を見ながら問いかけた。 消費生活がテーマの議論の相手を務めた「ゆうこさん」は生成人工知能(AI)。教師が鈴木さんの問いをタブレット端末に入力すると、支出の細かい内訳と「現在の生活を豊かに楽しむことを重視している」などといった“返答”が表示された。 同校は全校児童・生徒20人の小規模校。昨年度から保護者の承諾を得て生成AIを授業に活用し、授業中の議論の充実を図っている。西康隆校長(56)は「少人数学級で対話形式の授業ができる。将来使いこなすためにも触れておくことは必要だ」と語る。 離島や中山間地域が多い県内では半数以上の小学校に複式学級がある。垂水市の松ケ崎小学校と牛根小学校では、ICTを活用した遠隔授業でそれぞれ複式学級の同学年同士が一緒に学び、授業の充実を図る「単式化」に挑戦している。
両校は11月27日、研究授業を公開した。松ケ崎小側では、通常は一緒に授業を受ける5年生2人と6年生1人の教室を分け、牛根小の同じ学年の児童とビデオ通話でつないで授業を進めた。 両担任が指導を分担し、5年生は松ケ崎小の三栖勇輝教諭(26)が担当。画面越しの牛根小の児童2人にも頻繁に問いを投げかけながら、三角形の面積の求め方を指導した。松ケ崎小5年の清水慶次さんは「2人だけでは出てこない案もあって楽しかった」と話した。 教育の情報化を専門とする〓慎一郎・鹿児島国際大学福祉社会学部准教授(61)は授業を見て、「両校の児童がまるで一つの教室にいるようだった。多様な他者との交流機会を増やし、教育の質を向上することにつながる」と述べた。 加えて、ICTの活用は、小規模校に通う児童生徒の学習機会充実だけでなく、不登校の子供が授業を受ける機会を作ったり、進学に伴う環境変化に悩む「中1ギャップ」の解消にも役立ったりする可能性があると指摘。「小規模校に限らず、全ての教育現場で一人一人の個性を大切にするためのツールとして有効に使ってほしい」と語った。
南日本新聞 | 鹿児島