宮本優太にしか出せない色がある。171cm京都サンガCBの変わったルーティーン「調子乗りなので…」【コラム】
明治安田J1リーグ第21節、湘南ベルマーレ対京都サンガF.C.が6月30日に行われ、0-1で京都が勝利した。3試合ぶりの完封勝利に貢献した宮本優太は、本職ではないCBで相手FWを封じる活躍を見せた。宮本の活躍を軸に、完封勝利を収めた京都のディフェンスを振り返っていく。(取材・文:加藤健一) 【2024明治安田Jリーグ スケジュール表】TV放送、ネット配信予定・視聴方法・日程・結果 J1/J2/J3
⚫︎完封勝利で直接対決を制した京都サンガF.C. 試合終了の瞬間、背番号24はピッチに拳を突き刺して喜びを表現し、勝利の立役者となったGKク・ソンユンに抱きついた。直近2試合で5失点を喫していた京都サンガF.C.は、同じく降格圏に沈む湘南ベルマーレを1-0で破り、3試合ぶりの勝利を手にしていた。 背番号24をつけた宮本優太は、この日もセンターバックでプレーしていた。本職はサイドバックだが、京都に期限付き移籍で加入した今季は、アピアタウィア久の出場停止や、麻田将吾の負傷により手薄になっていたセンターバックでプレーする時間が長くなっている。曺貴裁監督は、流通経済大学でコーチを務めていた頃から知る教え子をこのように評す。 「今年の彼の活躍はまた彼自身のプレーの幅を広げたし、チームの助けにもなってくれている。浦和からレンタルできている選手ですけど、非常に頼もしい」 この試合における宮本のハイライトはいくつかある。50分、福田翔生からパスを受けた畑大雅が、切り返して福田心之助をかわそうとした。決定機になりそうな場面で身を投げ出した宮本は、畑のシュートをブロックすることに成功している。70分にはルキアンからパスを受けた福田翔生のシュートコースを塞ぐように脚を投げ出してブロックしている。 「フォワードのみんなもいつも以上に頑張って、足をつる選手が何人もいたので、最後のところで身体を張れないのは違うだろうと思っていた」 この日の京都は、いつも以上に球際への意識の強さを前面に押し出していた。その意識を強くさせた理由の1つが3日前の苦い記憶だろう。 ⚫︎「チームとして勝てた証」活かされた柏レイソル戦の反省 柏レイソルとの一戦は2-1とリードした状況でアディショナルタイムを迎えたが、マテウス・サヴィオに同点弾を許していた。サヴィオがシュートを放つ瞬間、宮本は身体を投げ出してシュートを防ごうとしたが、わずかに間に合わなかった。しかし、宮本は3日前の苦い経験をパワーに変えた。 「レイソル戦では自分のスライディングが届かなくて失点になってしまった。ああいうのは気持ちだけで片付けられない部分もありますけど、やっぱり気持ちは大事。自分らしさを捨てちゃいけないなと思って今日の試合に臨みました」 柏戦では試合終盤に3バックに変えて結果的には同点に追いつかれたが、湘南戦では4バックのまま逃げ切る選択肢を取った。試合終盤に湘南は4バックに変更して中盤を厚くしたが、「本当にチームとして勝てた証」と宮本が振り返るように、ベンチとコミュニケーションを取りながら、4バックのまま戦う方がいいという結論を下していた。 結果的に我慢の時間が続いたが、耐え抜くことができたのは偶然ではない。曺監督は「今日はその反省を活かすことができて、戦術的な進歩もあった」と振り返る。もちろん、PKをストップしたク・ソンユンの活躍なしに勝利を語ることはできないが、ディフェンスラインの右サイドの2人の活躍も大きかった。 湘南のストロングポイントになりつつある左ウイングバックの畑をどう止めるかは、多くの対戦相手が考えるところ。京都は右サイドバックの福田心之助が高い位置を取って畑の自由を奪い、その後ろのスペースを宮本がカバーする形をとった。湘南はルキアンや福田翔生を走らせてそのスペースを突こうとしたが、宮本のタイトなディフェンスによりほとんど無力化されていた。 ⚫︎「高め合いながら分かり合えている」2人の右サイドバック 宮本は「戦術上、僕らのサイドバックは高い位置にプレスをかける。そこで僕が心(福田)には裏はカバーするから大丈夫だよって声をかけていたので、心も思い切っていってくれた」と言う。福田は「裏を取られても宮本選手がカバーしてくれるという信頼感はあります」と信頼を強調していた。 「お互いにサイドバックの選手なので、お互いの特徴を分かっているので僕はやりやすかった」と福田が言えば、宮本も「同じサイドバックだからこそ、高め合いながら分かり合えている部分がある」と話す。右サイドバックのポジションを争う2人だからこそ生まれる関係性なのだろう。前に圧力をかける福田と、後ろをカバーする宮本の関係性がこの日は効いていた。 宮本がスタートからセンターバックを務めたのは3月29日の東京ヴェルディ戦が初めて。自身より大柄な相手とマッチアップすることが多いポジションでも、必死に食らいついてチャンスを掴んできた。 「自分としても(センターバックに)慣れてきました。でも逆に慣れたことで新鮮さがなくなってカバーリングの距離感が遠くなってしまうと良くない」 そう話す宮本にはセンターバックでプレーするときのルーティーンがある。一種のイメージトレーニングだが、一般的なそれとは少し異なる。 ⚫︎「周りに比べて1番下手」「向き合うパワーが人間を変えていく」 「試合前に自分に緊張感を持たせるために、ずっと嫌なイメージをしている。ルキアン選手にぶち抜かれたり、自分のミスで失点するイメージをしている。僕はちょっと調子乗りな性格なので、わざと自分でそうするようにしている。そうすると試合の入りも慎重になる感じもありつつ、かつ大胆にできる」 センターバックは1つのミスが失点に直結する。171cmという小柄な宮本がセンターバックに入るならば、一瞬の判断の遅れが命取りになる。そういう意味で考えると、宮本のように少しマイナス思考で臨んだ方がいい場合もある。自分の性格を客観視した上で、大胆さと繊細さのバランスをとっている。 「身長は低いですけど、自分が周りに比べて1番下手だということをまっすぐ出せる選手」 曺監督は宮本のことをこう表現した。自身より一回り大きいルキアンに食らいつくひたむきな姿は、たしかにチームにエネルギーを与えていた。 「物事に取り込む謙虚さとか、そこに向き合うパワーが人間を変えていく。彼にとってのプロサッカー人生はこれからだと思うので、こういう経験を活かしてまた1つ大きくなってほしいと思います」 流通経済大学から浦和レッズに加入し、1年目から公式戦22試合に出場。2023年冬にベルギー2部KMSKデインズへ移籍したが、半年で帰国。昨季は浦和で出場機会を得られず、京都へやってきた。浦和で酒井宏樹が立ちはだかったように、京都では福田という強力なライバルがいるが、宮本は真摯に課題に向き合って成長していく。 (取材・文:加藤健一)
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