ウクライナ、イスラエル、スラム街…世界の“子どもの部屋”を通し、大人が考えるべきこと――「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」開催中
「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」は2013年から京都で毎年行われている、世界的な視野をもった写真を軸とする芸術祭だ。京都市内の複数の会場を使って展開される。国際的な観光地である京都、そしてこの土地の歴史的建造物を借り、芸術的関心や社会的政治的問題点を立ち上げ、世界の今とこれからを考える機会を与えてくれている。 【作品写真】ジェームス・モリソン「子どもたちの眠る場所」
世界の子どもたちを取り巻く複雑な社会を知る
今回もそれぞれ京都ならではの魅力的なスペースに10カ国13組のアーティストの優れた作品が集結した。どれもこれも紹介したい展示であるのだが、ここでは一つの例を取り上げ、詳しく解説したい。 ジェームス・モリソンの「子どもたちの眠る場所」はコンセプト、取材力や写真の技術、そして展示も出色だった。彼はケニア生まれ、英国育ち。映画と写真を学んだ後、イタリアに渡り、ベネトンのクリエイティブ・ラボ、ファブリカで働いている。幼少期の自身のベッドルームに想いを馳せ、そこがいかに大切な場所であったか、自分が大事に持っていたものや自分そのものを表していたかを改めて考えた。 そのことで彼は、今日、地球を取り巻く複雑な状況や社会問題を考える方法として、各地のさまざまな境遇にある子どもたちの寝室に目を向けることを思いついた。難民危機、不平等、気候変動などが間接的に描き出される。大人たちが動かす世の中や世界というものに左右され、翻弄されるのは子どもたちだ。ときにさまざまなことを強要され、ときに甘やかされ、ときに悲惨な状況に巻き込まれる。 作品「子どもたちの眠る場所」は子どもたちの部屋がほぼ実寸大でになるよう引き伸ばされ、そこに住む子どものポートレート、そして文章による解説で構成されている。 日々、悲惨な戦争、紛争、軍事的衝突のニュースが途絶えることがない。ウクライナに住む6歳の少女の部屋を取材している。戦乱から家族とともに逃げる生活。一つタイミングを見誤れば、命を落としていたであろう状況が綴られる。 ニカ 6歳 最近まで、ニカはウクライナのマウリポリ中心部に近い、庭とブドウ畑のある大きな家に住んでいた。ロシアによるウクライナ侵攻が始まったとき、彼女の父親は警察官で、心理学を学ぶ母親は産休中だった。爆撃が激しくなるにつれ、彼女の家族は安全のための30キロ離れた別荘に移ることにした。爆撃がそこにも及ぶと、一家は最初地下室に移ったが、上のガスボイラーが爆発するのを恐れ、ルーマニアに逃げた。マウリポリから橋を渡ってわずか30分後、橋そのものが爆撃を受けた。ロシア占領地を通過する長くて拷問のような旅だったが、ルーマニア国境に到着したときには、彼らの家はロシアのミサイルによって破壊されていたため、結果としては幸運な脱出だった。現在ニカは、かつて大学生が住んでいた小さな寮の一室で、兄、姉、両親と一緒に暮らしている。 ージェームス・モリソン「子どもたちの眠る場所」展示説明より このように世界各地で生きている27カ国34人の子どもの部屋(眠る場所)と彼らの置かれた状況が目の前に展開する。たとえばアメリカ。同じ国に住んでいる子どもでありながら、貧富の差、環境の違いによる格差もありありと見えたりする。 大人たちが引き起こした戦乱は罪のない子どもたちを巻き込む。子どもたちは受け入れる以外に手段はない。やがて彼らが大人になって、それぞれの立場で社会を動かしたり、なんらかの形で政治に影響を与えられるようになったとき、より良い社会、より賢明な選択をすることを彼らが実現してくれることを願う。