"世のため人のため"にはもう働けない…「怪しいビジネス」でちまちま稼ぐ残念エリートが増えている理由
■行き場を失った知性が向かうのは にもかかわらず、人間社会はどんどん大卒や大学院卒をよかれと世の中に送り出している。知的エリートでなければできない仕事は増えるどころか、今後はAIによってますます減ってしまうかもしれないのに、おかまいなしに大量生産している。 そこそこにすぐれた知性の行き場を用意できなくなった人間社会は、ピーター・ターチンやフランシス・ベーコン(*4)が述べたように、大きな社会不安に見舞われるのかもしれない。 だからといって武装集団や革命勢力が街や議会を蹂躙(じゅうりん)するような、目に見えて「荒れた」世界はやってこないだろう。そうではなくて、エリートたちが合法的かつ秘密裏に他者や社会から「収奪」して、その「収奪」ができる構造を守ることばかりに持ち前のすぐれた頭脳を活用する、そういう閉塞的な時代がやってくる。 近ごろのメディアでしばしば伝えられる政治家の横領とか、エリート国家資格職の不穏なサイドビジネスとか、非営利団体への利益誘導とか、補助金不正受給とか、そういった方向で「こっそり稼ぐ」ような人たちの姿は嘆かわしくはあるが、それと同時にホモ・サピエンスという種族の最大の強みであった「知性」の行き詰まりを表しているように見えてならない。 (*4)フランシス・ベーコン(1561~1626) イギリスの哲学者。観察・実験に基づく帰納法を主張して近代科学の方法を確立。著書に実践哲学を説いた『随筆集』やユートピア物語『ニュー・アトランティス』など。「知は力なり」との言葉で人間の知性の優位を説いた。 ---------- 御田寺 圭(みたてら・けい) 文筆家・ラジオパーソナリティー 会社員として働くかたわら、「テラケイ」「白饅頭」名義でインターネットを中心に、家族・労働・人間関係などをはじめとする広範な社会問題についての言論活動を行う。「SYNODOS(シノドス)」などに寄稿。「note」での連載をまとめた初の著作『矛盾社会序説』(イースト・プレス)を2018年11月に刊行。近著に『ただしさに殺されないために』(大和書房)。「白饅頭note」はこちら。 ----------
文筆家・ラジオパーソナリティー 御田寺 圭