開幕スタメン有力・前川右京(阪神)「高3センバツでの大不振」が今の飛躍の原点だ!【主筆・河嶋宗一コラム『グラカンvol.12』】
前川選手を取材したのは20年9月。秋の県大会へ向けて練習を重ねる中、打撃練習をみせてくれました。まず驚いたのは太ももの太さ。他の選手と比べても一回りも太く、強靭なパワーを生んでいました。 当時の打撃練習ではほとんどがライナー性の打球で、あまりの打球の速さに常に芯で捉えられるコンタクト力の高さがありました。 前川選手は打撃のポイントについて次のように語ってくれました。 「捉える確率を高めるためにボールを引き付けた状態で、軽く振る。ひきつけて打つようにして、ケースを設定して外野フライ、ヒットを打たないといけないときはヒットを打つことを心掛けてやっています」 その後、前川選手は奈良県大会決勝戦で達 孝太投手(天理-日本ハム)、近畿大会決勝戦では関戸 康介投手(大阪桐蔭-日本体育大)と2人の超高校級右腕から本塁打を放ち、評価を高めます。チームも近畿大会優勝。選抜出場を果たし、前川選手は大会注目打者に挙がります。
選抜では打撃不振も夏に復活し、甲子園で2アーチ
しかし、選抜では10打数2安打に終わります。その時の前川選手は打ちたい気持ちが空回りしていて、打撃フォームを崩しているのがわかりました。 このままでは終われないと思った前川選手は走り込みの回数を増やすなど、減量に取り組み、選抜では90キロだった体重を83キロまで絞り、約2ヶ月後の近畿大会では10打数6安打、打率.600の好成績を残します。 打撃の状態を取り戻した前川選手は夏の奈良大会で打率.643の活躍をみせ、自身3度目の甲子園出場を決めます。 そして2回戦の横浜戦ではバックスクリーン弾、3回戦の日本航空戦でもライトスタンドへ特大弾を放ち、ついに甲子園で躍動した姿を見せてくれました。21年の甲子園は新型コロナウイルス感染の拡大の影響で、無観客での開催。有観客ならば大きくどよめいていた本塁打も、当時は打球音が響くだけでした。それでも前川選手は「ずっと甲子園で打ちたかったので、とても嬉しかったですし、今はコロナ禍で野球ができているだけでもありがたいこと。無観客でもやらせて頂けることに感謝という気持ちで野球をさせて頂いていました」と聖地での本塁打を噛みしめていました。 智辯学園は甲子園準優勝。前川選手はこの大会で世代屈指のスラッガーとして評価を高めました。また、高校野球ドットコムで企画した「ファンが選ぶMVP」では、見事に1位となりました。 ドラフト前にも取材をすると、前川選手は木製バットでも快音を響かせていました。フリー打撃では長打性の打球を連発し、連続ティーでは軸がぶれずに黙々と打ち返している姿を見て、打撃の完成度が違いました。 それでも前川選手は「意外といけそうな感じもするんですけど、今はピッチャーの球を打っていないので、まだ何とも言えないです」と半信半疑の様子でした。