電気自動車に積む「リチウムイオン電池」には2種類がある! レアメタル不足問題を解決する「LFP」ってどんなバッテリー?
中国ではLFPを積極採用
中国製の電気自動車(EV)が、ひとつの優位性を誇るのは、リン酸鉄を正極(+極)に使うリチウムイオンバッテリーだ。 【画像】中国BYDがEV駆動用バッテリーとして実用化したリン酸鉄のリチウムイオンバッテリーの画像を見る 現在、もっとも高性能なリチウムイオンバッテリーとして多くのEVが採用するのは、三元系と呼ばれ、ニッケル/コバルト/マンガン(NCM)を組み合わせた金属リチウムを+極に使う方式だ。一方で、世界的なEV普及の流れになると、ことにコバルトやニッケルは希少資源のため、奪い合いや価格高騰につながる懸念がある。 対するリン酸鉄は普遍的な資源であるため、価格競争力をもつとされ、中国のEV用バッテリーで積極採用している。同様に、米国のテスラも、一部の車種でリン酸鉄のリチウムイオンバッテリーをすでに使用している。 ただ、モノには何でも長所と短所がある。 リン酸鉄のリチウムイオンバッテリー(LFP)は、三元系に比べ容量が小さいとされる。したがって、航続距離を問うEVでは、一充電走行距離に不足を生じる懸念があった。 それを突破したのが、中国のBYDだ。ブレードバッテリーと呼び、1セルの電極の面積を細長く板状にして、より多くの面積を確保した。1セルが大きいことから、電極をつなぐ配線を減らせる構造になり、これも面積を稼ぐのに役立つ。あるいは、セルをモジュール化せず積層したり、バッテリーパックを車体と一体構造にしたりすることで、車載容量を増やす技術もある。こうして、三元系に迫る容量を確保した。 たとえばBYDの4ドアセダンであるシールの場合、82.56kWhのバッテリー容量から、後輪駆動車で640km(WLTC)の一充電走行距離を得ている。
ZEEKRからも新型バッテリー現る
同じく中国のZEEKRは、ゴールデンバッテリーと名付けたリン酸鉄のリチウムイオンバッテリーを車載する。日本にはまだ市場導入されておらず(2025年の予定という)、その詳細は不明だ。材料の若干の変更と、構造設計により、一般にリン酸鉄の体積利用率が約66%とされるところ、83.7%へ増大させたことで、2023年の広州モーターショーで公開された007では、100kWhのバッテリー搭載(後輪駆動のロングレンジ仕様)により、一充電走行距離で870km(中国のCLTC)を達成しているという。 車載バッテリーの写真を見ると、ブレードバッテリーと似た組付けだが、ブレードバッテリーのセルが左右のサイドシルをつなぐ長さがあるのに比べ、ゴールデンバッテリーは車体の中央で左右にセルが分かれているようだ。 ちなみに、テスラ・モデル3のアップグレード版(ハイランド)の最上級車種であるパフォーマンスは、78.4kWhのバッテリー容量で、日本のWLTCモードでの一充電走行距離は610kmである。 WLTCは、CLTCに比べその測定法の違いにより、エネルギー消費が25%以上低くなるとの報告がある。そこで、007の870kmという数字を換算すると、約652kmになる。モデル3の一充電走行距離に近く、それに比べバッテリー車載量は3割弱多いことがわかる。BYDのシールと比べれば、同等性能といえそうだ。 あとは、100kWhの大容量バッテリーを搭載しながら、車両価格をどこまで抑えられるかで、ゴールデンバッテリーの本当の実力が見えてくるのではないか。 資源の地域偏在性や原価のほかに、リン酸鉄バッテリーの利点として、充放電性能に優れたり、発火などの危険性の少なかったりがいわれている。とはいえ、リン酸鉄のバッテリーでも火災は起きているとの話もあり、いずれにしても、リチウムイオンバッテリーは、製造段階での厳密な品質管理と、使用段階での制御の緻密さ、そして温度管理の徹底などが、万全な安全対策につながるはずだ。
御堀直嗣