新CLでは「身体が持たない」 出場70試合超えのリスクも…英国人ファンが抱く切実な懸念【現地発コラム】
持てる力を全て出し切らない試合が続く恐れ
にもかかわらず、懲りずにシーズン終了直後にオーストラリアへの“出稼ぎツアー”を敢行していると言ってつつくと、彼は「その点、弁護士も含めて桁違いの戦力が揃っているチームはいいよな!」と言って、矛先をベンに向けた。ベンは、クラブ経営に収益性と持続性を求めるリーグ規則に関する115件もの違反容疑を全面否定しながら、前人未到のプレミア4連覇を達成したシティのサポーターだ。 その彼が、「(フィル・)フォーデンなんて、30歳まで身体が持たないんじゃないか?」と言うと、残る我々4人も思わず真顔で頷いてしまった。24歳のシティMFは、計53試合出場で27ゴール12アシストと、非常に多忙で多産なクラブでのシーズンを終えたばかり。イングランドが優勝候補として臨む今夏のEURO2024を終える頃には、代表戦を合わせた試合数が昨夏のプレシーズンから起算して「70」の大台に乗っているかもしれない。 しかも、「来季はシティの試合数自体が『70』以上」と、ベン。彼の計算は、2つの国内カップ選手権、新フォーマットでのCL、そしてFIFA(国際サッカー連盟)が出場32チームに開催規模を拡大した来夏のクラブワールドカップ(W杯)でも、シティが最後まで勝ち上がる展開が前提だ。 とはいえ、現実味がないわけではなく、その来季中にもさらに計4回の代表ウィークがやって来る。トップクラスの選手にすれば、試合で持てる力をすべて出し切ることではなく、7割前後の力を発揮できる試合を続けることに全力を注ぐしかないのではないか? 誰であっても、1年は365日で、身体は1つしかない。 テレビ観戦会からの帰宅途中、ロンドン中心部から西に向かう地下鉄の車内では、ヒースロー空港付近のホテルにでも戻る途中なのか、ドルトムントのファンを見かけた。レプリカシャツ姿の5人組は、並んで座ったまま無言の意気消沈ぶりだった。 まるで、しおれた黄色いチューリップを目にしたような思い。だが、かく言う筆者の胸中にも、やるせない気持ちはあった。今年のCL決勝終了。それは、エンターテイメントビジネスとしての側面が巨大化し続けるサッカー界が向かっているとしか思えない、「質より量」の時代を象徴するようなCL時代の始まりを意味しているのだから。 [著者プロフィール] 山中 忍(やまなか・しのぶ)/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。
山中 忍 / Shinobu Yamanaka