41歳の中村俊輔がボランチでJ2デビュー「駒の一人として」
「フリーキックの練習を見ただけで、違いがわかりますから。今週から蹴り始めたんですけど、ズバズバ決めている。本当に半端ない。すごいですよ」 シーズン途中の5月にヘッドコーチから昇格し、チームを右肩上がりに転じさせた下平隆宏監督が、俊輔が誇る黄金の左足に搭載された高精度のキックに思わず目を細めた。そして、レノファ戦の後半アディショナルタイムに、ゴールまで約20mの距離で横浜FCは直接フリーキックを獲得する。 キッカーはもちろん俊輔。下平監督をして「みんな期待しましたよ。いい位置でもらったと」と言わしめた絶好のチャンスは、俊輔の左足から放たれたキックが壁に当たって潰えた。しかし、積極果敢に仕掛け、相手のファウルを誘ったMF松尾佑介は「狙っていました」と舞台裏を明かす。 「(俊輔さんの)直接フリーキックが見たかったので」 仙台大学から来シーズンに加入することが内定していて、今シーズンはJFA・Jリーグ特別指定選手としてプレーする22歳の松尾をはじめ、チームメイトがすでにその左足に魅せられている俊輔の主戦場を、下平監督は当面の間はボランチとする構想を描いている。 「ゲーム勘がまだ戻っていないのか、プレッシャーが(実際よりも)ちょっと早く感じると言っていたので、周囲にスペースがあるボランチの方が彼のよさでもある、精度の高いキックを出せるので。それにしても、見ている視野が他の選手とは違いますね。レンジが本当に広い」 約4か月半ぶりの実戦となった横浜FCでの初陣へ、指揮官は再び目を細めた。レノファ戦でハットトリックを達成したエースのFWイバ。鮮やかなターンからダメ押しの4点目を決めた17歳のFW斉藤光毅。柏レイソル時代の2011年に、リーグMVPに輝いたレアンドロ・ドミンゲス。素晴らしい攻撃陣がいるからこそ、黒子に徹していく青写真を俊輔はすでに描いている。 「彼らをどう生かせばいいのか。ポジティブな面を出していけば(試合から遠ざかっているという)ネガティブな時間が減っていくので、大勢いるボランチのなかの駒の一人としてこれからもやっていきたい。あれもこれもと減点ばかりしてもしょうがないし、自分が試合に出たら前の選手が何かいい動きをするんだよな、というプレーができれば」 もう一人、ピッチでホットラインを開通させたいフォワードとしてカズがいる。52歳の歴代最年長プレーヤーとは偶然にもクラブハウスのロッカールームが隣同士になり、俊輔をして「カズさんが近くにいるから、練習がキツいなんて言えない」と苦笑させる。 「カズさんという最高の見本がいる。毎日が楽しいし、その恩返しじゃないけど、毎日毎日をそういう気持ちでやるだけですね」 平成に続いて再び三ツ沢の地から幕を開けた俊輔のストーリーは、令和の今回はどのような軌跡を描いていくのか。まだ17試合も残っているJ2戦線。俊輔が時間の経過とともにフィットしていけば、横浜FCは決して無視できない存在になってくる。 (文責・藤江直人/スポーツライター)