世界遺産倒壊で観光業に打撃も ネパール経済は大丈夫か? 横山謙一
4月に起きたネパールの大地震。マグニチュード7.8の巨大地震では、およそ8700人が死亡、1万7千人ものけが人が出ている。観光の名所だった世界遺産も壊れ、家に住めなくなった人は、今もテントで暮らす。地震がネパール経済に与えた影響はどの程度なのか。観光業は再生できるのか。アジア開発銀行ネパール事務所長、横山謙一氏に寄稿してもらった。 ネパール大地震から5月25日で一か月、現地に必要な支援は? -------- 4月25日に約80年ぶりの大地震に襲われたネパールは、国土面積が北海道の約1.8倍の小さな国で、国内総生産額は約24兆円、一人当たりの年間所得が約8万円に過ぎず、国連の定義では「最貧国」に分類されています。今回の災害はネパール中部の首都カトマンズ周辺を含む国土の20%近い範囲で、農山村地域を中心に家屋倒壊、地すべり等の大きな被害を及ぼしました。ネパールでは村落の家屋は土とレンガや石で造った脆弱なものが多く、震度5~6と見られる被災地域では家屋の8割以上に上る約80万戸が全半壊する被害となりました。
アジア開発銀行(ADB)の予測では、地震により今年度の国内経済成長率は当初見通しの4.6%から3.8%以下に低下する見込みです。特に経済の50%強を占めるサービス業への影響は大きく、首都カトマンズを含む被災区域では、大地震の後、余震による建物倒壊の危惧から全住民に建物外への避難命令が出され、商業活動が10日間以上停止しました。地震から1ヶ月以上たった現在では経済活動は概ね再開しつつありますが、カトマンズの全人口約300万人のうち約20%が疎開したと見られており、回復までにはまだしばらく時間がかかりそうです。
経済への影響は
地震による経済活動への影響としては、観光業への打撃が最も大きいと見られています。ネパールにとって観光業は国内総生産や雇用に占める比率が10%に上る重要な産業であり、今後の経済成長の鍵を握ると見られています。エベレストやマナスル、アンナプルナ山群などのヒマラヤのトレッキング、カトマンズ周辺の多くの仏教・ヒンズー教世界遺産、南部ルンビニの仏陀生誕遺跡やシロサイの多く見られるチトワン国立公園等が特に有名で、年間80万人近くの外国人観光客を集めています。 地震はネパール観光には短期的には大打撃を及ぼしました。カトマンズ周辺には10ヶ所の世界遺産がありますが、そのうちの7ヶ所で寺院・仏塔群の一部が全半壊しました。ヒマラヤ山脈では、エベレストの雪崩で20人以上が犠牲になったほか、カトマンズ北方のランタン渓谷では、大規模土砂崩れにより、「地球の歩き方」でも紹介されているランタン村が50メートル以上の土砂で埋もれてしまう惨事となりました。地震の後は、カトマンズの主要ホテルは建物検査のために約2週間閉業となり、その後再開されたものの、現在の客室占有率は2割以下でほとんどが災害対策関係者で占められています。ネパールの観光シーズンは4~5月と10~11月ですが、観光業の復興は少なくとも10月までは難しそうです。