スリランカ出稼ぎ事情、海外に一縷の望みを託す若者たち
インターナショナル・スクールは自国民の海外移住が最終目的
スリランカで不思議に思ったのはおよそ外国人が住んでいないような地方都市にもインターナショナル・スクールが存在することだ。ヌワラ・エリアの紅茶畑の真ん中にもインターナショナル・スクールがあった。 キャンディーのインターナショナル・スクールの女性校長と話して理由が分かった。そもそもコロンボ以外のスリランカのインターナショナル・スクールは外国人子女ではなく自国の富裕層子女を対象としているという。 スリランカの教育制度では小学5年、高校入試、大学入試の三回、全国統一試験があり(本編第5回『財政破綻以前は医療と教育は無償だったスリランカの今』ご参照)、国立大学に入学できる確率は同学齢の子供の数パーセントという超難関である。富裕層の子供でも国立大学に入るのは狭き門である。そして経済破綻により大学卒業しても国内に相応しい就職先がないためいわゆる学歴難民が激増している。 スリランカの現状や将来に悲観している富裕層は将来子供が先進国でそれなりの仕事に就いて最終的には移住できるよう学歴をつけることを望んでいる。先進国の大学への入学は学力的にコロンボの国立大学と比較すれば格段に容易である。それゆえ海外の大学が受け容れる国際的に認定されたカリキュラムのインターナショナル・スクールへ子供を入れるのである。
カナダへの移住目的の出稼ぎが人気の理由
スリランカで頻繁に耳にしたのがカナダ人気である。 11月27日。キャンディーのイタリア式幼児教育を採用している幼稚園は三階建ての立派な建物で20年の歴史があり富裕層向けだ。オーナー園長女性の娘は以前この幼稚園で教諭をしていたが結婚してカナダに渡航。カナダでも経験を生かして幼稚園で働いてカナダ国籍を取得。来年にはカナダのトロントで自分の幼稚園を開く予定だった。 12月6日。キャンディーの通りで出会ったゲストハウス・オーナーの青年はカナダ国籍を申請中。地元の名門セント・アンソニー・カレッジ出身なので裕福な家庭の出身らしい。彼はモルジブでホテルマンとしてのキャリアをスタート。現在はカナダのホテルで支配人をしている。キャンディーのゲストハウスは友人に経営を任せており、将来はカナダで自分のホテルを経営したいと抱負を語った。カナダは二重国籍を認めているのでスリランカ国籍を維持できるのでハードルが低いとカナダ移住のメリットを指摘した。 12月17日。マラタの宿の雑役夫の爺さんはある晩自慢そうに娘家族の写真を見せた。娘は地元の公立学校を卒業してカナダに留学して卒業後3年で永住権を取得したと。スリランカ人の旦那と子供と一緒に幸せそうだった。娘夫婦は爺さん夫婦をカナダに呼び寄せて一緒に暮らすことを提案していると。 フィリピンでも同様の話を何度も聞いたが、カナダでは移民政策の一環として留学生がカナダの大学を卒業してカナダで就業した場合には優先的に永住権を与えている。 日本が少子高齢化で年々人口減少に直面しているのに歴代自民党政権が“馬鹿の一つ覚え”のように移民政策はとりませんと繰り返しているのとは真逆な積極的人口政策である。自国民の出生率上昇を目指して異次元の莫大な国費をかけても先進国では人口減少は止められないというのはOECD諸国の前例で検証されている“不都合な真実”と筆者は思う。日本人女性の出生率上昇だけを愚直に目指す政策に大いに疑問を呈する次第だ。