パスタ食べる人も…あくびやメモまで見える池袋演芸場、マニアックな客が増えた新宿末廣亭 落語家と落語好きの女優が語った寄席の魅力
「女は落語やるな!」からの変化
桃花 寄席の雰囲気って、落語家のほうから合わせていくしかないんですよ。その日その日のお客さんたちの性格にもよるし、団体さんが入るとまた違ったりしますしね。これもやっぱり池袋の話ですが、あそこはマニアックなお客さんが多かったんですよ。少し前までは、腕を組んで「お前さんの芸程度じゃあ絶対笑わねえからな」みたいな感じのおじさんが並んでいたり。 南沢 うわあ、そんな昔の落語名人伝に出て来るようなお客さんがまだいましたか。 桃花 本当にいました。でも最近は傾向が変わってきて、池袋のお客さんが柔らかくなってきたんですよね。だから今の池袋、私すごい好きですね。 南沢 変わってくるものなんですね。 桃花 今は新宿末廣亭さんにマニアックなお客さんが増えてきた気がします(笑)。いや、笑いごとではなくて、もうものすごい大滑りしますよ。内心ズタズタです。 南沢 本当に? 桃花 幸い、私だけじゃなくて、芸人みんなヤラれてます。みんな討ち死にしては「やばいです」って言いながら降りてくる。これから高座に上がる人も「死んできます」みたいな(笑)。 南沢 そんな客席の雰囲気は、高座に上がった瞬間になんとなくわかるものなんですか? 桃花 わかりますね。というか、出番前に袖から聴いている時点で「あれ? 今日こういう感じ?」(笑)。「ずっとこういう感じなんだよ」とか「ちょっと柔らかくなってきた」とかお互いに情報交換しつつ、ネタを選びながらやっていくわけです。 南沢 すごいなあ。プロの情報交換と連携ですね。楽屋は結構忙しい(笑)。 桃花 それでも、どの寄席のお客さんも昔よりは柔らかくなってきたと思います。 南沢 年齢層が変わってきた感じですか? 桃花 若いお客さんも増えてきましたが、全体的な年齢層はあまり変わらないかも。 南沢 お客さんの見方がちょっと変わってきた? 桃花 それは言えます。前はもう「女は落語やるな!」みたいな人とかもいましたから。私が高座に座った瞬間に、あえて私にわかるように席立って、出て行ったり。 南沢 そんなことまで……。 桃花 でも、そういうの本当になくなってきました。やっぱり時代の変化ってありますね。 南沢 浅草演芸ホールでの「桃組」(桃花師匠が企画した、落語や色物など全ての演者を女性のみで番組構成した十日間興行)は話題になりましたが、お客さんの男女比はどうでしたか? 桃花 最初は男性のほうが少し多めで、こんな感じで最後までいくのかなと思っていたら、後半になるにつれてどんどん女性のお客さんが増えてきたんですよ。 南沢 評判を聞いて、足を運んだ女性が多かったんですね。 桃花 これはすごく嬉しくて、楽屋で「今日もまた増えてるよね?」ってみんな小躍りしてた(笑)。年齢層もだんだん若くなっていって、千秋楽なんて若い女性が半分ぐらいいて、涙出そうになりました。 南沢 すごい。 桃花 十日間で、ずいぶん熱気が変わっていました。最後は二階席の後ろまで立ち見になってて。「SNSで見ました」っていうのは、今の時代ならではでしたね。昔は十日間の番組の中でそんな大きな変化はなかったですから。本当に良い経験でした。「こういうことがやりたいんだ」と説明したら、落語協会も全面的に応援してくれました。 南沢 女性だけでの番組だと、演る演目は普段の寄席と変わるんですか? 桃花 噺も変わらなかったし、楽屋の雰囲気も変わらなかったのが面白かったです。なんかもっとフローラルな感じになるかと思ってたけど(笑)、そうでもなかった。でも、みんなでパーッて肌着になれる感じはやっぱり楽しくて。「隠して着替えなくていいんだ、わーい!」みたいな。 南沢 確かに! 桃花 前座さんだけは男性に入ってもらっていたので、「逆バージョン!」とか言っていじったり(笑)。でも、「うちらはいつもこの肩身の狭さ感じてたんだよ~」って。 南沢 それだけ女性の噺家さん、芸人さんの層が厚くなったってことですね。 桃花 この先どんどん女性真打が増えていくので、ここからまたフェーズが変わっていくでしょうね。それも踏まえて、新しい形で「桃組」第二弾ができればと思っています。 南沢 楽しみです! *** 【後編を読む】「わかってるなお前…」遅刻して高座でいじり倒された蝶花楼桃花が語った“落語の世界” [文]新潮社 着付け/山口さくら ヘアメイク/高畑奈月 衣装協力/branch(以上、南沢氏) 撮影/青木登 協力:新潮社 新潮社 波 Book Bang編集部 新潮社
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