初戦で散った海外Jクラブ争奪戦の桐光学園FW西川潤は何がどう凄いのか?
一矢を報いることすらかなわなかった。3分が表示された後半アディショナルタイム。体勢を崩しながらも、桐光学園(神奈川)のFW西川潤(2年)が必死に浮き球へ頭を合わせる。しかし、力のないシュートは相手GKに難なくキャッチされてしまった。 直後にまさかの初戦敗退を告げるホイッスルが鳴り響く。ニッパツ三ツ沢球技場の電光掲示板に刻まれる無情な数字。前半に2ゴール、後半には3ゴールをあげた大津(熊本)に対して、地元の大声援を受けた桐光学園はスコアレスのまま80分間を終えていた。 平成最後の大晦日に行われた第97回全国高校サッカー選手権大会1回戦。昨夏のインターハイで準優勝した桐光学園が、九州の強豪の前に惨敗を喫した。16歳ながらU-19日本代表へ「飛び級」で抜擢され、今大会の主役候補としても期待された西川が必死に声を絞り出した。 「悔しさしかないです。自分たちの時間帯に攻めすぎてカウンターを食らったシーンなどが、失点が多く重なってしまった原因だと思っています」 大一番を前に、1996年度の第75回大会で桐光学園を準優勝に導いた中村俊輔(40)からアドバイスをもらった。同じレフティーで、ともに「10番」を背負った憧れの大先輩は、自らの経験を基に「初戦の雰囲気を一番大事にしよう」と檄を飛ばした。 「そのなかで立ち上がりにああやって失点してしまって。もっとチーム全体で試合への入りをよくして、自分たちの雰囲気をしっかり作っていたらよかったんじゃないかと」 西川が悔やんだのは、スローインの流れから開始5分で喫した先制点。桐光学園の鈴木勝大監督(41)をして「出鼻をくじかれ、選手たちも面食らってしまった」と言わしめた悪い流れを修正できないまま、5分後にもカウンターから追加点を許した。 序盤で2点をリードしたことで、大津の戦い方はさらに明確になった。最も危険な存在、西川へのパスを徹底的に遮断する。前半は孤立する時間帯が多かったエースは、後半に入ると多少強引に仕掛けながら大津ゴール前に迫る。しかし、ペナルティーエリア内では利き足の左足を徹底的にケアされた。 8分、9分と立て続けに左足を振り抜いた。そのたびに卒業後は湘南ベルマーレ入りが内定している、キャプテンのDF福島隼人(3年)のブロックに弾き返された。攻める西川に対して、福島が必死に食い止めたように映ったシーンだったが、西川は「読まれていた」と完敗を認めた。 「一度キックフェイントを入れるとか、周りをもっと生かすという選択肢も増やしていれば。(パスを遮断されることは)試合前からわかっていたので、ワンチャンスに賭けていた部分も個人的にはありましたが、立ち上がりに2失点したことで自分のなかに狂いが生じたというか」 今月中旬からはドイツへ渡り、ブンデスリーガ1部のバイヤー・レバークーゼンの練習に参加する。U-16日本代表が優勝した、昨秋のU-16アジア選手権でMVPを獲得した西川の才能と将来性が高く評価され、練習参加を打診された。 「向こうで自分のプレーの幅というものをいろいろと広げて、海外でどれくらい通用するのか、ということを踏まえながら今後の進路を決めたい」 こう語る西川のもとへは、すでにセレッソ大阪から正式なオファーが届いている。鈴木監督によれば「オファーを出したい、と言ってくれているクラブがまだある」という。国内外のクラブによる争奪戦へ発展する様相を呈しているが、初めて臨んだ全国選手権では確固たる結果を残せなかった。