【デデデデ】脚本・吉田玲子が目指したイキイキとしたキャラクター描写
黒川さんからのリクエストは
――一方で、黒川さんからのリクエストもあったかと思います。 吉田 黒川さんが気にされていたのは門出と凰蘭の日常描写と、彼女たちが生きる世界の描写のバランスでした。門出と凰蘭を中心に物語を進行させる一方で、ふたり以外の人々の生活も描いていく。例えば亜衣ちゃんの両親が補助金を目当てに避難住宅暮らしを続けているといった描写も入れていきたいとお話をいただきました。そうすることで門出と凰蘭が生きるSF的な世界を他の人たちがどう感じているかを見せたいとのことでしたね。 ――本作には世界設定として鈴木貴昭さんも参加しています。シナリオ作成の打ち合わせにも参加しているのでしょうか? 吉田 参加してもらいました。鈴木さんには主に母艦や自衛隊描写に関するアドバイスをいただきました。命令系統や登場する各隊員の階級について監修いただき、駐屯地の場所や各隊員が所属している分隊の設定を作ってもらいました。脚本制作にあたってもこれらの設定はとても有用でした。階級によって言葉遣いや敬語の使い方は変わってきますから。 ――改めて既に公開となっている『前章』についてお聞きしたいです。前半のキーとなったのはキホちゃんの死でした。 吉田 原作において、彼女の死は世界観がハードになるきっかけになっている。なので彼女の死はもちろんのこと、そこに至るまでの門出たち仲良し5人組の描写は丁寧に脚本に組み込んでいきました。そこからキホちゃんが何の前置きもなく死を迎える流れを作る。そこで暮らす人たちと無関係と感じられた“世界の異常さ”が生活と隣接したものだと感じられるように物語を組み立てていきました。 ――『前章』後半では原作終盤に登場する門出と凰蘭の過去が描かれました。順序を変更したのはどうしてですか? 吉田 『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』を2本の映画にすることを考えた時、『後章』が盛りだくさんの内容になることは避けられなかった。その怒涛の展開を見せる前に、門出と凰蘭の間にある絆とそれが築かれた歴史を咀嚼する時間を作りたかったんですよ。なので『前章』の最後に2人の過去のエピソードを持ってきました。一度間を置き、キャラクターの理解度を上げた状態で『後章』を見てもらえるよう順序を変更しました。そうすることで本作がより感情移入しやすい作品になると思いました。 ――映像化ならではの理由ですね。 吉田 そうですね。原作であるマンガだったら各々好きなスピードで作品を楽しめる。門出と凰蘭の過去を知ったタイミングで、自ら咀嚼する時間を作ることができます。一方で、映像は作り手が物語の進行速度をコントロールすることになりますので。 ――後半に登場した『イソベやん』の描写も印象的でした。 吉田 『イソベやん』は作中に登場する門出が好きなマンガということに集約しました。門出の行動や不思議な道具への理解度などを観る方にわかっていだたくための補助装置として描いています結果、過去編のあのタイミングで『イソベやん』を登場させることになりました。 ――これから公開となる『後章』のお話もお聞きしたいです。制作に当たって苦労もあったと思うのですが……。 吉田 『前章』よりも物語が大きく動いていくので、大変でした。 ――苦労したポイントでいくとどこになるのでしょうか? 吉田 『後章』では社会を揺るがす事件が次々に起こる。その中で門出と凰蘭は相変わらずの日常を送っているんですよね。その両者をいかに違和感なく共存させるかが難しかったです。そこのバランス感を間違えると、ふたりの日常が社会から浮いてしまう。それが見る人に違和感を感じさせることになりますから。 ――『後章』では物語の締めくくりが原作と変わるということでしたね。 吉田 折角の映像化ということもあり「原作とは違う締めくくりになってもいいのではないか」と浅野先生自身から提案をいただきました。それで「劇場作品として本作をいかに締めくくるべきか」を先生含めてディスカッションをし、見終わった時の後味を意識して構成を考え、浅野先生が描いたネームをもとにラストシーンを作っていきました。受け取った人が気持ちよく劇場を後にできる締めくくりになったと思うので、是非劇場でチェックしてほしいです。 ――最後に『後章』公開を楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします。 吉田 目まぐるしく状況が変化していく『後章』、既に公開となった『前章』とはタッチが異なる作品になっています。その雰囲気、世界観含めて劇場で目の当たりにしてもらえると嬉しいです。
一野 大悟