戦時中の「面白くない」国策落語を林家三平さんが再現した意味
「ビフテキはいけないね、ぜいたくはテキだというからね」「トンカツはいいだろう。敵にカツだから」-。落語家の林家三平さん(53)が1日、祖父の七代目林家正蔵さんが戦時中に口演した国策落語を大分県宇佐市で再現した。太平洋戦争末期、同市に配備された旧日本海軍の特攻機「桜花(おうか)」を描いた映画に、三平さんが隊員役で出演した縁で実現。戦地に出る前の祝宴を話題にした落語を披露した三平さんは「正直面白くない。当時はこれでしか笑えなかった。今の時代がいかに幸せか感じてもらえたら」と語った。 旧海軍航空隊ゆかりの宇佐など5市町でつくる「空がつなぐまち・ひとづくり推進協議会」の主催。正蔵さんは戦時中、軍部の検閲を受けた戦意高揚の国策落語の口演を余儀なくされた。再現した「出征祝」は商店の跡取りの若旦那に召集令状が届き、父の大旦那や番頭たちが祝宴のごちそうについて語り合う場面を描く。 大旦那は強気に言う。「うちのせがれがお国のために役に立つんだ。こんなうれしいことはない」。ただ息子が「戦地に行くともう帰ってこない。そうなると、この家を継ぐのは一体誰だ…」とこぼす場面も。最後は「一升瓶を2本買った(日本勝った)」とのオチで終わる。戦時統制の中で精いっぱい本音をにじませた語りを熱演し、観客は静かに聞き入った。 桜花は、第721海軍航空隊(通称・神雷(じんらい)部隊)による、1・2トンの爆弾を載せた1人乗りの小型特攻兵器。母機に搭載され、敵艦に近づくと切り離され体当たり攻撃をした。1945年2月、神雷部隊の一部が宇佐へ配備された。 三平さんが出演した映画「サクラ花-桜花最期の特攻」(2015年製作)も上演された。トークイベントで松村克弥監督(61)は「戦争は罪もない若者、庶民を巻き込むことを映画で伝えたかった」と語った。三平さんは、父の初代林家三平さんが学徒出陣し、本土決戦に備えて千葉県の九十九里浜で塹壕(ざんごう)を掘っていたことにも触れた。家族と戦争のつながりが、三平さんの活動の原点にある。 【写真】大分県の宇佐市民図書館の「桜花」をテーマにした企画展 宇佐市民図書館では8月18日まで「桜花」の機体の一部や、神雷部隊の写真、遺書などが展示されている。入場無料。 (文・平原奈央子、撮影・三笘真理子)