バックパックを背負った犬が歩くたび、自然が蘇る未来
次の主役は「イノシシ」か
それでも既に成功と言えるのが、地域社会の関わりだ。この地を長いこと歩いていた人々が土地の健全化に貢献し、SNSを通じて互いに、そしてトラストとつながっている。 バーバラ・ヘイドンと彼女の猟犬フリーダは週に2回、この土地を散歩する。「うちの子には多くの経験をさせたい」とヘイドンは言う。「彼女が走り回りながら種をまくのを見るのは素晴らしい。走るのがとても速いので、短時間でかなりの面積をカバーする。ただ自分らしくいるだけで大切な仕事をしているのを見るのは、とても誇らしい。あの子のことを見直した」 プロジェクトはメディアの高い関心を集めている。だが報道は必ずしもポイントを捉えていないと、ミードは言う。 「犬にオオカミの役割を担わせるというアイデアが関心を呼んだが、これは全体の取り組みの一部でしかない。私たちは野生種の影響を再現し、人間と自然の結び付きを回復することを目指している」 次はイノシシを主役に 例えば保護区には小川があるが、ビーバーはいない。ビーバーのダムは水流を調整し、大雨の際は水流を遅くし、さらには水を浄化する助けにもなる。ダムは新しい生息地を形成し、その多様性を高める。 だが、ビーバーがいないのにビーバーダムを造るにはどうすればいいのか。1つの答えは、人にダムを造ってもらうことだ。「動物をまねろと言われたときの人々の行動は興味深い。現実を忘れて没頭する」と、ウォーカーは言う。 次のプロジェクトとしては、イノシシの行動を再現する計画に可能性がありそうだ。種子は固く締まっている土地より、適度に柔らかくなっている場所のほうがよく育つ。イノシシは根や食用キノコを探して地面を掘り返すのに、ひづめを使っていた。農場から豚を借りてきたり、子供たちが靴にひづめのような装備を付けて活動するのもよさそうだ。 今回のプロジェクトは小規模ではあるが、「ブラウンフィールド(工業跡地)」の生物多様性を取り戻す方法としては十分な可能性がある。この保護区は、60年代にイギリスの鉄道で多くの支線が廃止となったために不要となった元鉄道用地だ。 産業革命を生んだこの国は、80~90年代にかけて最も劇的に、痛みさえ伴って脱工業化を経験した国でもある。工場や製鉄所、炭鉱が一斉に閉鎖され、エネルギー生産の変化によって、ガス工場は不要となった。そして今のイギリスは、環境を回復させる活動に積極的に取り組んでいる。 保護区の大半は外来植物などがのさばることで多様性が失われ、一部の動物がすみにくくなっている可能性がある。この土地を最大限に活用するには、努力と想像力が必要だ。 この実験から学べるのは、犬には種をまくこともできるということだけではない。1つのアイデアが未来へと伸びていく「種」になり得ることも教えてくれる。
コリン・ジョイス