広島の男気・黒田の日本凱旋は成功だったのか、物足りなかったのか?
「ツーシームは、ストレートと同じ軌道に見えること、小さな変化、コントロールの3つの要素がそろったときに通用するボールです。黒田のツーシームがつかまるケースは、ことどとく高めに浮き、コントロールされていないボールでした。対策をされたというよりも、疲労など体調から来る理由で、黒田自身の調子が悪く、キレ、コントロールがなかったのが理由でしょう。最後の阪神戦では低めにきっちりコントロールされて、阪神打線がツーシームの罠にかかっていましたね」とは、元阪神、五輪代表チームのスコアラーを務め、現在、岡山商科大で特別コーチを務めている三宅博氏の見立て。黒田の凱旋帰国の成功は、日本用にマイナーチェンジしたツーシームが通用したことと、その生命線のボールがシーズンを通じて健在だったことにあるだろう。 与田氏は、黒田のピッチャーとしての基本姿勢にも成功の要因があると考えている。 「彼は、日本に帰ってからプレートの一番右端を踏むようになりました。足先が、かかっているくらいの位置です。打者から見るとリリースポイントが右側へずれるので、右打者のインサイドと、左打者のインサイドのフロントドアと呼ばれるツーシームの角度をより鋭くするための工夫でした。 本人に聞くと、日本のプレートがアメリカのものに比べて滑ることが、その理由のひとつと聞きましたが、つまりピッチングのスタート、《1》の部分である軸足で立つことを大事にしているので、ピッチングを修正しやすいのです。僕は、そういう自己修正能力の高さも黒田の成功の原因だと見ています。41歳となる来年も十分に力を発揮してくれるでしょう」 与田氏は、そう黒田の来季の活躍にも太鼓判を押した。 また数字に見えない、リーダーシップも随所に見られた。最後の阪神戦での続投志願や、バッターとしての打席での粘りが、その象徴だったが、中4日登板も敢行。素手でボールを取りにいく姿や、藤浪のビーンボールに対して「舐めるな!」と威嚇したりと、シーズンを通じて、戦う姿を、その背中で示した。 緒方監督も「最後の最後まで黒田に頼りっぱなしだった」と言う。 黒田は、タイトルとは無縁だっが、広島に有形無形の期待以上の効果をもたらしてくれた……というのが成功したか否かに対する答えだろう。