【冷やしたぬきそば】突然の衝動に突き動かされて作った、真夏の"立ち食いそば風"冷やしたぬきそば:パリッコ『今週のハマりメシ』第146回
ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。 【写真】市販の揚げ玉は崩すとサクサク感がアップ! それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。 そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。 * * * ある猛暑日の午後、突然、猛烈に「冷やしたぬきそば」が食べたくなった。そういうこと、誰にでもあるだろう。 ちなみにここで言うたぬきそばとは、大きなあぶらあげをのせた関西風のものではなく、そばに揚げ玉をんのせた関東スタイル。会社員時代は夏になるとよく、立ち食いの「小諸そば」の冷やしたぬきを食べていた。具だくさんで、さくさくの揚げ玉たっぷりで、あれ、かなりの名品だと思う。 そしてたった今、僕が求めているのは、手打ちでそば自体にこだわりのあるような店の、格式高い味わいではない。いい意味で雑で、麺は立ち食い系の王道のちょいボソゆでおきで、それをわっしわっしとかっこみたい気分だ。 とはいえ、外は灼熱。駅前のそば屋にまで出ていくだけで疲れきってしまいそう。コンビニでいいか。と、まずは近所のファミリーマートに行ってみると、定番品だと思っていたのに、麺類コーナーの棚にない。あきらめきれず、セブンイレブン、ローソンと回ってみても同様。少なくとも僕の観測範囲のコンビニで、冷やしたぬきそばは見つけられなかった。 驚いたことはそれだけではなく、なんと、どの店にも「冷やしたぬきうどん」や、それに類する商品は売られていたのだ。うどんじゃないんだよなぁ今日は......。というか、同じ「冷やしたぬき」のなかで、そんなにも人気に差があるということなんだろうか。なんだかショック。 そこで少し足をのばして1軒のスーパーに行ってみると、なんとそこも同様の事態。どうなってるんだ......。愕然としつつ店内を徘徊していると、1食ぶんがパックになったゆでおきそばが売られていた。もう、自分で作るか。 となると他に必要なのは、当然揚げ玉。それから、きゅうりにねぎに、わかめも欲しいな。あ、かにかまも。なんて、次々かごに入れていく。 もはやこの時点で、時間も労力も、そして1杯の冷やしたぬきそばにかけた金額も、最初っからそこらの町そば屋にでも向かっていたほうが良かったことは確実な状況だ。夏の暑さが、僕の正常な判断力を鈍らせたんだろう。そんな日があってもいい。 ところで我が家には、こんな状況にぴったりの秘密兵器があるのだった。それは、立ち食いそば屋で主に使用されている、床に落としても割れないメラミン製のそばどんぶり。 以前ネットで見つけて衝動買いした、一家にひとつ持っているだけで、いつでも立ち食いそば屋気分が味わえる頼れるやつだ。
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