レッドブルRB20の”超攻めた”デザインに、ホンダ/HRCが果たした役割。角田哲史LPL「エンジンの熱限界を上げることで、間接的に貢献できているはず」
ホンダ・レーシング(HRC)でF1プロジェクトのLPL(ラージ・プロジェクトリーダー)を務める角田哲史エクゼクティブ・チーフエンジニアが、2024年シーズンに向けてパワーユニット(PU)の面で行なってきた開発について解説。運転する際の限界温度を引き上げてきたと明かした。 【写真】これがレッドブルRB20の秘密。エンジンカバーが外され、ホンダPUの姿が! 昨年圧倒的な強さを見せ、22戦21勝という年間勝率の新記録を樹立したレッドブル。彼らはそこにあぐらをかくことなく、革新的な2024年用マシンRB20を登場させ、多くの人々の度肝を抜いた。サイドポンツーンの開口部が非常に小さくなり、ヘイローの付け根に新たな開口部を準備。そして先日まで行なわれたバーレーンでのプレシーズンテストでも順調すぎる走りを見せた。 「あそこまで昨年と違うコンセプトのクルマを作っているということ自体は、我々も最近まで知りませんでした」 HRCの角田LPLはそうRB20について語ったが、あの攻めたデザインには、ホンダ/HRCとしても大きく貢献しているのは間違いないようだ。 「一番大事なのは、信頼性開発という名の、ポテンシャルを最大限に発揮するという競争があることです。耐久テストを行なうことで、運転限界……つまり”どこまで使って大丈夫なのか”という確認領域を広げています。それにより、最大限のポテンシャルを出し切るという開発をしています」 そう角田LPLは語る。 「エンジンが熱くなってしまうと、部品の強度限界がやってきて、壊れてしまいます。ですので、エンジンが熱くなりすぎてしまった場合には、出力を下げざるを得ません。そのバランス点、出力を下げずにどこまで運転温度を上げられるかを確認していった結果として、チームに『ここまでは使っていいですよ』ということを言えるんです」 エンジンの運転温度の限界点を上げることができれば、求められる冷却性能が小さくなるということを意味する。つまりラジエーターを小型化、ひいてはボディワークの小型化にも寄与するわけだ。角田LPLは続ける。 「例えば100℃以下で運用してくださいと言って出来たラジエーターと、110℃まで使っていいですよと言って出来たラジエーターのサイズは違うんです。そういう限界値を上げていくことで、車体の設計自由度を増やしていくという意味で、我々は間接的にではありますが、車体のパフォーマンス向上に貢献したい。そういう活動をしています」 そして2024年シーズンに向けては、車体の開発途上の段階から、熱限界を引き上げられるという情報を、レッドブルに伝えていたのだと角田LPLは語る。 「冷却器の設計が出来上がった段階でそういう話をしても、排熱に伴うエアロパッケージについては大きな貢献はできません」 「ですが今回は冷却器を設計する前の段階で我々からそういう情報を伝えられました。その情報は、チーム内部でフィードバックされていると思います。それで今年の新車が出来上がっているということです」 「先日のテストに登場したレッドブルの新車は、大幅にコンセプトを変え、より攻めたデザインになってきました。まさにこれがF1だと思ったし、やっぱりレッドブルはチャンピオンになるのに相応しいチームなんだなと、私は改めて感じました。タイムの結果だけでは、他チームとの相対的な勢力図は分かりませんが、HRCとしては準備万端の状態で今シーズンを始められると思っています」 そのRB20の”攻めた”デザインに、HRCは相当貢献したのではないか? そう尋ねると角田LPLは、控え目にこう答えた。 「いやいや。我々の立場で”相当貢献した”と言うのは難しいです。でも、少なからず貢献はできていると思いたいです」 なおテストで走ったRB20はまだ仮の姿であり、日本GPあたりには大規模アップデートを投入することでさらに攻めたデザイン……一説には昨年途中までメルセデスが使っていたような”ゼロポッド”のような姿になるのではないかという噂もある。 それを実現するためには、ラジエターをさらに小さくする必要があるはずだ。現時点で熱限界に”余裕”があるのではないかと角田LPLに尋ねると、彼はこう答えた。 「マシンをどうしていくかということは、チームの問題です。でも、走る時には最大限のパフォーマンスを出そうとしますから、開幕戦のバーレーンGPと第2戦のサウジアラビアGPで最大限のメリットを出すように使うはずです。つまり、我々の温度限界を前提としたエアロパッケージで、勝負してくると思います」 「ただ、シーズン中に大きな変更を行なうというのは、コストキャップの問題もあるでしょうから、よく分かりません。とはいえどうなるのは、私も楽しみにしています」 ちなみにエンジンの吸気に関しては、新たにヘイロー付け根に開けられた開口部ではなく、従来と同じように、ロールフープの開口部で行なっているという。
田中 健一