【社説】EV用電池産業 九州経済の柱に育てよう
蓄電池が地球温暖化対策の鍵になると注目されている。自動車の電動化や再生可能エネルギーの導入拡大に欠かせないためだ。 蓄電池に関する技術開発は日本が先行したが、中国や韓国の追い上げでシェアを落としている。国内の生産基盤を強化し、競争力を向上させることは経済安全保障上も重要である。 緊急度が高いのは電気自動車(EV)用電池だ。九州では大手自動車メーカーなどによる大型設備投資計画が相次ぐ。域内でサプライチェーン(供給網)を構築し、自動車や半導体のように九州経済を支える産業に育てたい。 蓄電池産業は巨額の先行投資が必要で、典型的な装置産業といわれる。欧米や中国、韓国などが大規模な政策支援を打ち出し、市場獲得を競い合っている。 日本政府も手を打った。経済安全保障推進法に基づき、EV用電池を重要物資に指定した。供給確保につながる民間企業の投資計画を認定し、必要な資金の一部を支援する仕組みだ。 経済産業省は先日、新たに12件の計画を認定した。合計投資額は1兆70億円で、3分の1程度の最大3479億円を助成する。九州への大型投資も含まれる。 日産自動車は1533億円を投じ、福岡県内にEV用電池工場を建設する。2028年に新型電池「リン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池」の生産を始める予定だ。 トヨタ自動車も福岡県苅田町に工場を造り、同年の操業開始を予定する。35年までに全車種のEV化を見込む高級ブランド「レクサス」の生産拠点、トヨタ自動車九州(福岡県宮若市)に供給する。投資額は兵庫県の工場と合わせて2450億円になる。 日本触媒(大阪市)は375億円かけて、EV用電池の材料を生産する工場を福岡県内に建設する。 工場ができ、雇用が増えるのは地域にとって朗報だ。 加えて西部技研(福岡県古賀市)とソフトエナジーコントロールズ(北九州市)の計画が認定されたのは心強い。地場企業の積極的な参入が、蓄電池関連産業の厚みを増すことにつながる。 経産省によると、19年に約5兆円だった蓄電池の世界市場は技術開発に伴い、30年に約40兆円、50年には約100兆円に拡大する。官民一体の取り組みを続けたい。 日本企業のEV用電池シェアは、15年の50%超から20年には21%に低下した。 政府の支援が次世代の全固体電池の技術開発に集中する間に、国際競争で中韓に逆転された。失策である。経産省は22年に策定した蓄電池産業戦略に、それまでの政策の反省と見直しを明記した。 半導体や太陽光電池、風力発電など、当初は日本がリードしながら競合国に市場を奪われた例が目につく。その轍(てつ)を踏んではならない。
西日本新聞