衝撃の芥川賞から20年…金原ひとみが語る「40代の使命感」
社会への憤り……テーマの根幹に
── 新人にとっては書き続けるのが難しいという話もありました。金原さんはどのように書き続けてきたのでしょうか? また執筆に集中する方法はありますか? 私は、次はこういう作品を書きたいというのが割と常にある方だったんです。 子供ができてからは、自分自身の置かれている環境が変化したこともあり、少しずつ社会の問題や、そこに対する憤りをテーマの根幹に据えることも増えていきました。 一番集中力を使うのは、小説を書き進めているとき。深い集中が必要だし、周りに人がいるとなかなかできないので、それなりの環境を作ってから入り込むことになります。 入り込むまでの集中力を高めていく間は、ちょっとした事務的な仕事をやってしまうとか、昨日書いた箇所を読み返したり、子供が帰って来たら執筆は諦めて、ゲラの確認に移るとか、時間を使い分けています。そうしないとやっていられないからそうしているだけなんですが。この環境でできる最大限はここ、と見極めながら切り替えています。 デビューしてから最初の10年ぐらいは、書きたいのに時間が取れないとか、子供の世話をしないといけないとか、苦労することが多かったのですが、だんだん効率的な時間の使い方が分かってきました。
「一人称多視点」がターニングポイントに
── これまでの作品のなかで、ターニングポイントになった本をあげるとしたら、どの本でしょうか? ひとつは『マザーズ』です。この作品は初めて「一人称多視点」を使った小説で、多層的な書き方ができ、書ける範囲が広がったと実感しました。 何人か全然違うタイプの母親が出る話にしようと思っていたのですが、一人称が続くと、どうしてもべったりとした世界観になってしまう。 自分ではこう言っているつもりなのに、人からはこう見えてしまう、といった認識の差異が書けるのは、一人称多視点かなと思いました。 「自分はこれが正しいと思っている」という小説でもストーリーによっては成り立ちますが、「正しいと思っているけど、こっちから見たら正しくないよね」というところまで書けると、小説として強度が増すので。 いろんな視点だったり、価値観だったりをできる限り取り入れていきたいとずっと思っています。ただでさえ小説って、一人よがりになりがちなので。