中国は米雇用奪っていない、通貨安誘導していない トランプ大統領の誤認
「世界の工場」と呼ばれる中国は対米輸出超過が著しく、ドナルド・トランプ米大統領からの批判の矛先にもなっています。自国の通貨安を誘導し、米国の雇用を奪っているとトランプ大統領は指摘しています。 経済的仮想敵国に祭り上げられてしまった中国ですが、データを分析してみると米国からの雇用喪失は中国のせいではないことがわかります。一方、中国の通貨安誘導についても、実際には大統領が指摘しているのとは別な動きを示しています。感覚で物言う大統領の事実誤認そして、中国の対米貿易と為替誘導の実際について、日経センターの室井秀太郎さんが解説します。
均衡する日中貿易に対し、米中貿易は中国の輸出超過
トランプ米大統領は、中国の米国との貿易における大幅な輸出超過が、米国の雇用を奪っているとして中国を批判している。米商務省の統計では、2016年の米国の対中貿易赤字は3470億ドルで、米国の貿易赤字の46%を占めた。中国の海関統計では、16年の対米輸出は3852億ドルだったのに対し、米国からの輸入は1344億ドルと輸出のおよそ3分の1にとどまっている。対米貿易における大幅な輸出超過は近年も続いている。
中国の日本との貿易を見てみると、中国側の統計では16年は163億ドルの赤字になっている。一方、日本の財務省の統計では、同年は4兆6531億円の日本側の赤字になっている。双方の統計でともに自国側の赤字と傾向が食い違っているが、これは香港経由の貿易をどう取り扱うかの違いによるものである。この影響を取り除くため、原産地が特定される輸入額同士を付き合わせると、日中貿易はほぼ均衡している。日中貿易に比べて米中貿易の不均衡は著しい。米中貿易の場合は、輸入額同士を合わせても、中国側の大幅な輸出超過である。 中国の15年の海関統計で対米貿易品目を見ると、対米輸出では機械・電気機器が43.8%を占めている。次に家具などの雑品が11.5%となっている。3位には繊維製品の10.9%が続く。一方、米国からの輸入では機械・電気機器が23.8%で首位を占める。2位は輸送用機器で20.3%である。3位は植物性生産品で11.0%だった。 同じ統計で中国の対日貿易品目を見ると、対日輸出もトップは機械・電気機器で41.1%を占めた。2位は繊維製品で15.4%、3位が雑品で5.7%となっている。日本からの輸入でも機械・電気機器が首位で45.5%に上る。2位は精密機械などの10.6%、3位は化学工業生産品の10.1%だった。 米中貿易と日中貿易の上位品目を比べて見ると、まず、どちらでも輸出入とも機械・電気機器がトップに立っている。ただ、中国側の輸入では、米国からの場合よりも、日本からの場合の方が、比率が高い。米中貿易では、その分、米国からの輸入で、輸送用機器の割合が高い。米中、日中貿易とも、中国側の輸出では、機械・電気機器に次いで、雑品や繊維製品のような、中国が得意とする労働集約型製品の割合が高い。一方、日中貿易では、中国側が工業分野で日本から積極的に完成品や中間財を輸入していることがうかがわれる。 米中貿易と日中貿易の大きな違いは機械・電気機器のバランスである。日中貿易では、機械・電気機器で中国側の輸入が日本への輸出を2割近く上回っている。一方、米中貿易では機械・電気機器で中国側の輸入は米国への輸出の2割にとどまっている。この構造が米中貿易の不均衡の大きな要因である。 日中貿易では、日本から半導体などの部品が活発に中国へ輸出され、中国からはスマートフォンなどの完成品が輸入されている。機械・電気機器では中間財のやりとりも活発である。日本企業は中国に進出して現地生産を展開する一方、国内では部品や中間財の生産を残し、日中間で相互補完的な生産体制を築いている。財務省の統計では16年に日本に輸入された電算機類のうち76%は中国製であった。