4回めの開催まもなくの「TBSドキュメンタリー映画祭」。今年の必見作をLiLiCoが語る
坂本龍一さんのドキュメンタリーは観る人をも動かしてくれる
また、坂本龍一さんの地雷撲滅活動を追った『坂本龍一 WAR AND PEACE 教授が遺した言葉たち』もあります。紅桜さんは自分を再生しようとしましたが、坂本龍一さんは音楽で世界のために何かをなそうとしている。同じミュージシャンを追っていても、こんなにも違ったドキュメンタリーになるんだ、って多様さをまざまざと知ることができますよね。 坂本龍一さんって偉大すぎて、この作品を観るまではこんな気さくな人だとは思っていなかったんですよ。実は一度だけ直接お会いしたことがあるんですが、それもひと言交わしたくらいだったのね。審査員をしている報知映画賞で『Ryuichi Sakamoto:CODA』を選出したときだったんですが、「君がいろいろ言ってくれたんでしょ」っておっしゃって握手。もっと話しておけばよかった……。 坂本さんは、活動のために直接ボリビアに足を運んで、現地の様子を自分の目で見ているんです。そこまでの活動を果たしてどれくらいの人が知っていたのかな。しかも、同じように平和活動をする若い子たちが彼を招き入れ、彼もまた若い子たちに思いを託していく。このバランスもすごくいいし、「良くない」と思ったらすぐに動く人。音楽家として大成している方だけど、そのネームバリューを自認した上で、他の活動にもアクティブなのってすごく素晴らしいですよね。私もウガンダの子どもたちの支援活動をしていますが、直接は行けないから経済的援助だけ。この作品を観たら、直接なにかできることをしようって思いましたし、観る人をも動かしてくれる素敵なドキュメンタリーだったんだと気づかされました。
久保田智子さんとはハグして「大丈夫だよ」って励ましたい
作品を撮った監督と喋りたいなって真っ先に思ったのは、『私の家族』の久保田智子さん。TBSのアナウンサーだった彼女が『王様のブランチ』に出演していた時期があったんですけど、その頃は静かな方ってイメージだったんですよ。そんな彼女が、自分の経験を基に監督した作品だから、もっと深堀りした話を聞いてみたいですね。 彼女は20代の頃に自分が妊娠できないことを知って、特別養子縁組を選ばれました。びっくりしたのは、申し込んで数週間で(縁組成立の)連絡が来たっていうこと。私の知人にも特別養子縁組を希望している人がいるんだけど、何年も待ってるんですよ。アメリカだと養子縁組の件数は年間6万もあるのに、日本って年間でひと桁なんですって。日本のこの制度と条件がどうも理解しがたいくらいに遅れていることは気になっていたんですが、彼女に会ってそのへんのことを聞いてみたいし、血の繋がりの有無で引け目を感じていらっしゃるのか、作品の中でネガティブな発言が目立つことについても語り合いたいし、ハグしたい。15年ぐらい会ってないかもしれないけど、「大丈夫だよ」って励ましたい気分にさせられました。 養子縁組については、いろいろと私の回りにエピソードがあるもんだから、この作品は昨年一番ハマった『魂の殺人』と並ぶブっ刺さった作品。そうそう、仙台で出演している番組で、3人組の女性に街頭インタビューをしたとき、そのうちのひとりが「ごめんね、子どもが小さいから迎えに行かなきゃ」って席を外したのね。そのあとで、残ったおふたりから、彼女は60歳のときに養子を迎え入れられたんだって聞いたんです。7年前ぐらいの話なんですが、日本も変わったなと思って、すごく嬉しかったんですよね。 日本の人には家族や年齢に対して、なにか変えがたい思い込みみたいなものがあるように私はいつも思っているんですが、そこが変わるとずいぶんと生きやすい社会になるんじゃないかな、って。それがちょっとずつ変わってきていることを実感できたんですよ。『私の家族』もそれを後押しする作品になると思っています。