東京五輪マラソン代表の一発選考方式の是非。 強化につながるのか
MGCレースは2019年の秋(9月以降)に開催され、五輪に近いコースでの開催を目指しているという。真冬のレースと比べて、気象条件も近く、「調整能力」も試される。そういう意味では、本番でも力を発揮できる可能性の高い選手を選ぶことができるだろう。また選考基準(1)(2)(3)による選考は、MGCレース終了時点において「即時内定」となるため、東京五輪までゆとりをもって準備できるメリットもある。 今回の新方式で素晴らしいのは、どうしたら日本代表に選ばれるのか? その基準が明確になったことだ。選手や指導者を取材していると、「わかりやすい一発選考がいい」という意見が多かった。なかには「選考レースで優勝しても選ばれないとなると、どうしていいのかわからない」と日本陸連の曖昧な選考基準に苦言を呈する指導者もいたが、これでスッキリする。 選手としてウエルカムな選考方式というだけでなく、ファンの立場から考えてもMGCレースは見どころが満載だ。これまでは有力選手が各大会に散らばり、マラソンで誰が最強なのかよくわからなかった。MGCレースは「日本一」を決めるレースに近い。マラソン界の“オールスター戦”は多くの視聴者を惹きつけるだろう。 その一方で新方式のデメリットもある。 最も懸念されるのは「強化」につながるのかという点だ。東京五輪の前年(9月末)にはドーハ世界選手権が行われるが、今回の選考レースには入っていない。日程の近いMGCレースへの出場を優先するために、ドーハ世界選手権を辞退する選手が続出することが予想される。 過去には野口みずきがパリ世界選手権で銀メダルを獲得して、翌年のアテネ五輪の金メダルにつなげているように、世界大会の経験は貴重だ。ドーハで世界大会のレースを体感して、東京五輪を目指すプランを描いていた選手もいたが、その青写真が崩れることになる。東京五輪が初めての世界大会では、地元開催といえども厳しい戦いとなるかもしれない。 またMGCレースの出場権をつかむために、まずは手堅くまとめようと考えるランナーが増える。2時間9~10分台でOKという考えでは、世界との差は広がる一方だ。そして、MGCレースも日本人だけの勝負では、世界大会のような揺さぶりは期待できない。スローペースからのラスト勝負というワールドグローバルという視点でいうと、平凡なレースに終わりそうな予感が漂う。また世界を見据えたレースができない状況で、MGCレースで代表をゲットしても、好タイムを目指して翌年春のマラソンに参戦するかどうかはスケジュール的に微妙なところだ。 今回の新方式の代表選考は、過去の失敗から学び、日本陸連としては大胆に舵を切ったと思う。あとは「強化」という視点で、どんな戦略を考えているのか。選手やチーム任せではなく、もう1歩踏み込んだ、斬新で革命的な強化策を期待したい。 (文責・酒井政人/スポーツライター)